甲状腺と大腸がん、結腸がん、直腸がん、甲状腺転移[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
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甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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大腸がんは症状が無いため、定期検診しか早期発見の方法がありません。大腸がんの早期発見には、3年に一度の大腸内視鏡検査が必要とされます。
日本の大腸がん検診(便潜血検査)は、健康増進法に基づく健康増進事業として市町村が実施しています。大腸がん検診(便潜血検査)は対策型がん検診で、集団全体(日本国民)の死亡率を下げるために行われます(ちなみに個人の死亡率を下げるための任意型がん検診は人間ドックなどです)。有効性が確立された対策型がん検診は、子宮がん検診(細胞診)、乳がん検診(マンモグラフィ)、大腸がん検診(便潜血検査)の3つだけです。
とは言うものの、大腸がん検診(便潜血検査)は大腸内視鏡検査に比べれば精度が落ちます。
Summary
クロンカイト・カナダ症候群(Cronkhite Canada症候群)で甲状腺機能低下症に。治癒切除不可能な進行・再発の大腸がんにベバシズマブ(アバスチン®)投与し甲状腺機能低下症と副甲状腺機能低下症に。抗癌剤5-フルオロウラシル(5-FU)は血中サイロキシン結合蛋白(TBG)を増加させ遊離型サイロキシン(FT4)が減少(5-フルオロウラシル誘発性甲状腺機能低下症)。大腸癌(直腸がん・結腸がん)甲状腺転移は稀で、エコー上、境界明瞭な低エコー領域で腺腫様甲状腺腫、良性濾胞腺腫、悪性の甲状腺濾胞癌と見分けが付かず。ほとんどが大腸がん肺転移も合併。直腸瘤で便秘。
Keywords
甲状腺機能低下症,転移性甲状腺癌,5-フルオロウラシル,甲状腺転移,甲状腺機能亢進症,直腸がん,ベバシズマブ,クロンカイト・カナダ症候群,大腸癌,結腸がん
クロンカイト・カナダ症候群(Cronkhite Canada症候群)で甲状腺機能低下症を来した症例が複数報告されています。[World J Gastrointest Surg. 2023 Nov 27;15(11):2646-2656.][Medicine (Baltimore). 2023 Feb 10;102(6):e32714.]
クロンカイト・カナダ症候群は、非遺伝性の胃・大腸ポリポーシスが原因でおこります。胃・大腸からの蛋白漏出・下痢・消化吸収不良が続き、栄養障害・味覚異常・脱毛・爪甲萎縮・皮膚色素沈着に至り、あたかも副腎皮質機能低下症や亜鉛欠乏症のようです。また、高率に胃癌・大腸癌を合併します。
甲状腺機能低下症を合併した症例では、Alb 2.0 g/dL の低アルブミン血症、FT3 1.6 pg/mL、FT4 0.3 ng/dL、TSH>100 μIU/mL と重度の甲状腺機能低下症だったが、TRAb <0.3 IU/L、抗TPO抗体・抗Tg抗体は陰性、甲状腺超音波(エコー)検査でも甲状腺サイズに異常なかったとの事です。
最終的には、低アルブミン血症の軽快と共に甲状腺機能も正常化したため、甲状腺ホルモンの原料となるヨウ素(ヨード)の吸収障害が原因だった可能性を考えたそうです。しかし、筆者は亜鉛(Zn)欠乏性甲状腺機能低下症の可能性も考えます(第55回 日本甲状腺学会 P2-02-09 甲状腺機能低下症を認めたCronkhite-canada 症候群の一例)
[N Engl J Med. 2012 Feb 2;366(5):463-8.]にも同様の報告があります。甲状腺機能亢進症に対する甲状腺切除後の甲状腺機能低下症が、クロンカイト・カナダ症候群の合併により増悪。
VEGF 受容体シグナル(刺激)伝達を阻害するチロシンキナーゼ阻害薬(スニチニブ、アキシチニブ、ソラフェニブ)により甲状腺機能異常が高頻度に生じます。しかし、VEGF 抗体で甲状腺機能異常が生じるか不明でしたが、福岡徳洲会病院の報告では、ベバシズマブ(アバスチン®)投与(mFOLFOX+BV)で甲状腺機能低下症と副甲状腺機能低下症が生じたそうです。(第56回 日本甲状腺学会 P2-080 bevacizumab 投与により、甲状腺機能低下ならびに副甲状腺機能低下症を来たした一例)
海外では、転移性大腸がんに対してベバシズマブとリニファニブを比較投与した結果、甲状腺機能低下症の有害事象はリニファニブで多かったそうです。[Clin Colorectal Cancer. 2014 Sep;13(3):156-163.e2.]
分子標的薬アービタックス®(セツキシマブ)は、上皮成長因子受容体(EGFR)を阻害し、癌細胞の増殖を抑えます。大腸がん・頭頸部がんに保険適応がありますが、EGFR受容体陽性の甲状腺未分化癌・副甲状腺癌にも有効との報告が出ています[Zhejiang Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. 2021 Dec 25;50(6):685-693.](第57回 日本甲状腺学会 P2-067 甲状腺未分化癌に対しセツキシマブが有効であった一例)。
大腸がん(結腸・直腸癌)の化学療法でよく使用されるフルオロピリミジン系抗癌剤5-フルオロウラシル(5-FU)は、甲状腺ホルモンのサイロキシン(T4)と結合する血中サイロキシン結合蛋白(TBG;thyroxinebindingglobulin)のシアル化を促進し、その半減期を延長させるため、血中TBGが増加。そのため、TBGと結合していない遊離型サイロキシン(FT4)が減少し、甲状腺ホルモン作用の低下が起こります(5-フルオロウラシル誘発性甲状腺機能低下症)。T3に対する影響は軽微です。
(Cancer Treat Rep. 1977 Oct;61(7):1291-5.)(Oncol Rep. 2013 Oct;30(4):1802-6.)
大腸癌、直腸がんの甲状腺転移は比較的稀。原発巣の内訳は直腸がん(41%)、S状結腸がん(33%)、右結腸がん (19%)、左結腸がん(11%)(Case Rep. Surg. 2013;2013:1–5.)。
大腸癌の甲状腺転移患者の31-50%は無症候性で、甲状腺機能正常がほとんどのため、甲状腺転移の診断が遅れることが多い。もう半数は首の腫れや頸部腫瘤を認めます。重度の甲状腺機能低下症を来した報告もあります。(Ann. Surg. Oncol. 2014;21:434–439.)(Eur. J. Cancer. 2006;42:1756–1759.)(Endocr. J. 2006;53:339–343.)
一般に、大腸癌患者の手術後フォローアップ検査には、頸部の画像診断が含まれていないため、甲状腺転移の診断が遅れます。
大腸癌の甲状腺転移は、境界明瞭な低エコー領域であったとの報告あり。
エコー上、腺腫様甲状腺腫、良性濾胞腺腫、悪性の甲状腺濾胞癌と見分けが付きません。
大腸癌、直腸がんの甲状腺転移のほとんどが、肺転移も合併しますが、甲状腺転移のみの場合もあります。
大腸癌の甲状腺転移そのものに対する治療は、せいぜい甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)くらいで、外科的切除は原則ありません。肺転移など他臓器転移との兼ね合いで抗がん剤、分子標的薬の適応には成り得ます。
[甲状腺転移,肺転移にて発見された上行結腸癌の1切除例日臨外会誌71(3),766―770,2010](Int J Surg Case Rep. 2021 Apr;81:105804.)
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