甲状腺と膠原病[全身性エリテマトーデス(SLE),混合性結合組織病(MCTD)],抗核抗体(ANA)[橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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(MedicinePlus より改変)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックにつき、膠原病の診療を行っておりません。また、全身性エリテマトーデス(SLE)などステロイド剤・免疫抑制剤を必要とする膠原病を合併した甲状腺機能亢進症/バセドウ病の方は、メルカゾール・プロパジール・チウラジールの重篤(重症)な副作用が現れる危険があるため、必ず同一施設内で治療して下さい。
Summary
膠原病の抗核抗体(ANA)は甲状腺自己抗体の影響で160倍くらいには上昇。ウイルス感染や、ウイルス感染が原因の亜急性甲状腺炎でも一過性に陽性化。甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病(慢性甲状腺炎)と膠原病は持続的な発熱(微熱〜高熱)、全身倦怠感、易疲労感、体重減少、リンパ節腫脹など共通の症状。全身性エリテマトーデス(SLE)合併甲状腺機能亢進症/バセドウ病は血球減少、SLE 様症状・ANCA関連血管炎の副作用などのため抗甲状腺剤(メルカゾール・プロパジール・チウラジール)を投与しにくい。
Keywords
膠原病,抗核抗体,ANA,甲状腺,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,全身性エリテマトーデス,SLE,合併,橋本病
抗核抗体(ANA)と甲状腺
抗核抗体(ANA)は、何らかの自己免疫疾患で陽性になります。抗核抗体(ANA)は、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)でも弱陽性になるため、必ずしも膠原病とは限りません。(Pol Arch Med Wewn. 2012;122 Suppl 1:55-9.)
抗核抗体(ANA)の基準値は40倍未満ですが、健常人でも抗核抗体(ANA)弱陽性になります(通常は80倍以下)。
抗核抗体価が160倍以上の場合は二次検査として、膠原病特異的自己抗体を調べるのが一般的ですが、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)でも160倍くらいになります。[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)など自己免疫抗体の影響]
報告では、甲状腺機能亢進症患者の
- 約34%が抗核抗体(ANA)陽性
- そのうちの約86%が抗核抗体価320倍未満
- 均等型:homogeneous (約48%)、 斑紋型:speckled (約48%)
(Endocr Metab Immune Disord Drug Targets. 2020 Nov 11.)
橋本病(慢性甲状腺炎)患者の47%が抗核抗体(ANA)陽性。そのうち60%が40倍の弱陽性(Minerva Med. 2007 Apr;98(2):95-9.)。
320倍以上の場合には全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性強皮症(全身性硬化症:SSc)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、多発筋炎、混合性結合組織病(MCTD)の6つの膠原病を疑う必要があります。そもそも、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)と膠原病は、同じように自己免疫で起きるため合併率は高いのです。
また、抗核抗体(ANA)が高値(640-1260倍)と言うだけで、甲状腺機能低下症と同じような全身倦怠感が起こります。もちろん、甲状腺機能低下症に似た症状の亜鉛欠乏症・副腎皮質機能低下症・下垂体前葉機能低下症などではありません。不思議なのは、抗核抗体(ANA)が高値であるのに、全身倦怠感以外の膠原病特異的な症状が皆無で、何の膠原病の診断基準も満たさないことです。
抗核抗体(ANA)とウイルス感染
抗核抗体(ANA)はウイルス感染や、ウイルス感染が原因の亜急性甲状腺炎でも一過性に陽性化する事があります。無痛性甲状腺炎、橋本病(慢性甲状腺炎)、関節リウマチ、赤芽球癆、再生不良性貧血を引き起こすヒトパルボウイルスB19ウイルス、B型肝炎ウイルス(HBV)、橋本病(慢性甲状腺炎)合併率の高いC型肝炎ウイルス(HCV)、風疹ウイルス(生ワクチン接種でも)、東南アジア・アフリカで感染するデングウイルス・チクングニアウイルスなどで起きやすいとされます。
抗核抗体(ANA)陰性の自己免疫抗体
細胞質蛋白に対する自己免疫抗体は、抗核抗体(ANA)陰性になります。核でなく細胞質なんだから当たり前か。
- リウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)
- 抗環状シトルリン化ペプチド(cyclic citrullinated peptide:CCP)抗体
- 抗好中球細胞質抗体 (anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)
- 抗カルジオリピン抗体等の抗リン脂質抗体
は抗核抗体(ANA)陰性です。
実は健常人で抗核抗体(ANA)が陽性になる場合があります。健常人の
- 約32%が40倍
- 約13%が80倍
- 約5%が160倍
- 約3%が320倍
の値を示します(Arthritis Rheum. 1997 Sep;40(9):1601-11.)。
要するに抗核抗体(ANA)が40倍-80倍の健常人は普通にいます。また、前述のように、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)でも抗核抗体(ANA)が160倍くらいになるため、健常人の中には甲状腺機能正常橋本病、潜在性甲状腺機能低下症の橋本病、潜在性甲状腺機能亢進症のバセドウ病が含まれている可能性があると筆者は考えます。
膠原病と甲状腺
膠原病のほぼ共通症状として、
- 持続的な発熱(微熱〜高熱)(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の様)
- 全身倦怠感、易疲労感(甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症の様)
- 体重減少(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の様)
- リンパ節腫脹(甲状腺機能亢進症/バセドウ病、橋本病の様)
などがあります。そもそも、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)と膠原病は、同じように自己免疫で起きるため合併率している事も多いです。
膠原病の個別症状は、かなり特徴的ですが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病でもおこり得る症状も多いです。
抗核抗体(ANA)の染色パターンと対応する膠原病特異抗体
和文名 | 英文名 | 代表的抗体 |
---|---|---|
均等型 | homogeneous pattern | 抗ds,ssDNA抗体、抗ヒストン抗体、抗mi-2,pm-1抗体、甲状腺自己抗体 |
辺縁型 | peripheral pattern(shaggy pattern) | 抗ds,ssDNA抗体 |
斑紋型 | speckled pattern | 抗RNP抗体、抗Sm抗体、抗SS-A,SS-B抗体、抗Scl-70抗体、抗Ku抗体、抗Ki抗体、抗PCNA抗体、抗RANA抗体,甲状腺自己抗体 |
核小体型 | nucleolar pattern | 抗Scl-70抗体、抗PCNA抗体 |
細胞質型 | cytoplasmic pattern | 抗Jo-1抗体、抗リボソーム抗体、抗ミトコンドリア抗体 |
PCNA型 | proliferating cell nuclear antigen pattern | 抗PCNA抗体 |
セントロメア型(散在斑紋型) | centromere pattern(discrete speckled pattern) | 抗セントロメア抗体 |
2019年の全身性エリテマトーデス (SLE)診断基準では、最低でも抗核抗体(ANA)が80倍以上あるのが必須条件です。しかし、前述の様に自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病・橋本病)では甲状腺の自己抗体のみで軽く80倍を超えます(Ann Rheum Dis. 2019;78:1151)。
全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus;SLE)は、若い女性に多い(男女比=1対9、発症年齢20~40歳)自己免疫疾患で、自己免疫性甲状腺疾患のバセドウ病と一部発症年齢が重なります。
また、バセドウ病患者における全身性エリテマトーデス(SLE)の発症リスクは健常人の約3倍とされます(Int J Rheum Dis. 2021 Feb;24(2):240-245.)。
全身性エリテマトーデス(SLE)では、バセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)、甲状腺乳頭癌の合併率が高くなります(PLoS One. 2017 Jun 27;12(6):e0179088.)(Front Endocrinol (Lausanne). 2017 Jun 19;8:138.)。
先に全身性エリテマトーデス(SLE)が発症して、既にSLEでプレドニン®(プレドニゾロン;PSL)や免疫抑制剤等が投与されていると、以下の理由で、新たに抗甲状腺剤(メルカゾール・プロパジール・チウラジール)を投与しにくいです。
- 全身性エリテマトーデス(SLE)だけでも血球減少している、あるいは減少する可能性が高い
- 抗甲状腺剤は血球系に対する副作用が多く、血球減少が重篤(重症)化する事も多々ある(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の汎血球減少)
- 治療抵抗性で遷延する無顆粒球症がおこる(第62回 日本甲状腺学会 P19-5 プロピルチオウラシルで治療中にSLE増悪と遷延する無顆粒球症を呈したバセドウ病の1例)
- 抗甲状腺剤(メルカゾール・プロパジール・チウラジール)の副作用としてSLE 様症状がおきる
以上より、全身性エリテマトーデス(SLE)合併甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、
を念頭に置くべきと考えます。
抗甲状腺剤(メルカゾール・プロパジール・チウラジール)の副作用としてSLE 様症状(発熱、紅斑、筋肉痛、関節痛、リンパ節腫脹、脾腫等)が現れることがあります。SLE様症状と言うより膠原病様症状の方が妥当と思います。添付文書には頻度不明となっていますが、そう頻繁に起こるものではなく、筆者も数例経験がある程度です。
- メチマゾール(メルカゾール)によりループス腎炎をおこし、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチルなど免疫抑制剤まで使用した報告(Am J Case Rep. 2020 Dec 22;21:e927929.)
- プロピルチオウラシル(PTU)誘発性びまん性増殖性ループス腎炎[J Am Soc Nephrol. 1997 Jul;8(7):1205-10.]
- メチマゾール(メルカゾール)により水疱性SLEを起こした報告(J Korean Med Sci. 2012 Jul;27(7):818-21.)
- メチマゾール(メルカゾール)によりANCA関連血管炎、SLE様症候群を起こした報告(Acta Derm Venereol. 2002;82(3):206-8.)
- 愛媛県立中央病院によると、抗甲状腺剤で治療された全身性エリテマトーデス(SLE)合併バセドウ病患者48 名のうち約17%がSLE 症状悪化に類似した副作用をおこしたそうです。)(第56回 日本甲状腺学会 P1-024 SLE の経過中にバセドウ病を併発しアイソトープ治療が奏功した一例)(Intern Med. 2002 Dec;41(12):1204-8.)
抗甲状腺剤誘発性エリテマトーデスは、投与後数ヶ月~数年してに発症。診断・治療は、抗甲状腺剤の中止を除けば、特発性全身性エリテマトース(SLE)と変わりありません。
プロピルチオウラシル(プロパジール・チウラジール)がSLEを誘発
プロピルチオウラシル(プロパジール・チウラジール)がSLEを誘発する事があります(Lancet. 1989 Sep 2;2(8662):568.)。非常に興味深いのは、プロピルチオウラシル(プロパジール・チウラジール)をメルカゾールに切り替えて1カ月後、SLEが明らかに改善し、プレドニン®(プレドニゾロン;PSL)を減量できた報告です(Srp Arh Celok Lek. 2016 Nov-Dec;144(11-12):639-44.)。
更に、プロピルチオウラシル(プロパジール・チウラジール)投与2週間後、SLEだけでなく、抗リン脂質抗体症候群による脳梗塞を誘発した報告もあります(Arch Neurol. 2011 Dec;68(12):1587-90.)。
プロピルチオウラシル(プロパジール・チウラジール)によるANCA関連血管炎が数カ月後に起こり、特に白血球減少を伴う全身性エリテマトーデス(SLE)が増悪(日本臨床腺学会 P19-5 プロピルチオウラシルで治療中にSLE増悪と遷延する無顆粒球症を呈したバセドウ病の1例)
本来、シェーグレン症候群の特異抗体である抗SS-A抗体陽性の全身性エリテマトーデス(SLE)では、蛋白漏出性胃腸症起こしやすいとされます。免疫複合体が消化管の毛細血管に沈着し、血管透過性が亢進するのが原因です。軟便が続き、低アルブミン血症、全身浮腫が著明になります。タンパク漏出シンチグラフィーで診断できますが、アイソトープ施設のある大学病院などでしか行えません。(日本内科学会雑誌 100:119-125,2011)
全身性エリテマトーデス(SLE)で腹痛がみられる場合には、
-
ループス腸炎(腸間膜血管炎};腸間膜血管炎や微小塞栓と考えられており、悪心・嘔吐や重症例では消化管出血、消化管穿孔
- ループス腹膜炎;嘔吐・下痢(100%)、腹痛・発熱(90%)
の可能性があります。
混合性結合組織病(MCTD)は、抗U1-RNP抗体が必ず陽性で、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、全身性強皮症(全身性硬化症:SSc)、多発性筋炎/皮膚筋炎の症状/検査所見が混在、独自にMCTD肺高血圧症(最大の死因)・三叉神経痛あり。シェーグレン症候群(25%)、慢性甲状腺炎[橋本病](10%)を合併します。
初診から10年後に甲状腺乳頭癌(PTC)を発症した.混合性結合組織病(MCTD)の報告があります。甲状腺全摘術後に混合性結合組織病(MCTD)症状が有意に改善し、MCTDは腫瘍随伴症候群だった可能性が考えられました。[Am J Case Rep. 2015 Aug 6;16:517-9.]
混合性結合組織病(MCTD)と肺高血圧症
肺高血圧症は、混合性結合組織病(MCTD)の最大の死因です。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病自体でも、肺血流量の増加、それにともなう肺動脈内皮細胞の障害による肺血管抵抗増大で肺高血圧症に至ります。混合性結合組織病(MCTD)を合併すれば更に肺高血圧症が起こり易いと言えます。
詳しくは、 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の肺高血圧症 を御覧ください。
混合性結合組織病(MCTD)と三叉神経痛
膠原病で三叉神経痛をおこすことがあり、MCTD(混合性結合組織病)では抗RNP抗体と同じく特徴的な合併症です。バセドウ病、橋本病など自己免疫性甲状腺疾患の合併が多く、甲状腺も検査する必要があります。
詳しくは、 動脈硬化で三叉神経痛 ・脳幹部血管圧迫による神経性高血圧症 を御覧ください。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。