ダウン症候群,ターナー症候群,クラインフェルター症候群と甲状腺[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌病態内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。ダウン症候群,ターナー症候群,クラインフェルター症候群の自体の診療を行っておりません。
Summary
ダウン症候群(Down症候群)は甲状腺の病気、甲状腺機能亢進症(思春期~20歳代)と甲状腺機能低下症(全年齢)の合併が多い。ターナー症候群はX染色体の欠失(45,XO)・構造異常が原因で女性のみ発症、卵巣機能不全による二次性徴障害、月経異常、不妊、低身長(成長ホルモン欠乏でない)、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症/橋本病。クラインフェルター症候群はX染色体が複数存在する47,XXYで男性のみ、高身長・やせ型・長い手足、男性ホルモン量低下し性腺発育不全、無精子症、女性化乳房、中枢性(下垂体性)甲状腺機能低下症で、慢性甲状腺炎(橋本病)は少ない。
Keywords
ダウン症候群,甲状腺,甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症,ターナー症候群,卵巣機能不全,橋本病,クラインフェルター症候群,性腺発育不全,中枢性甲状腺機能低下症
以下、18番染色体トリソミー(エドワーズ症候群),ウィリアムズ症候群,アルカプトン尿症,5p欠損症候群と甲状腺
トリソミーとは本来、1対2本の染色体が1本余分に、合計3本ある病態です。21番染色体のトリソミーはダウン(Down)症候群と呼ばれます。
ダウン症候群の甲状腺疾患に関しては、
- 先天性甲状腺機能低下症;新生児マススクリーニングをすり抜ける可能性があるため、生後6か月以内はマメに甲状腺機能をチェック(Horm Res Paediatr 2017;87:170–8.)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病(思春期~20歳代に多い);
発症年齢が早い
男女差が小さい
橋本病が先行しているケースは多い
APS(多腺性自己免疫症候群)3型など、他の自己免疫疾患の合併が多い
難治性のバセドウ病は少なく、寛解しやすい
(Eur J Endocrinol. 2010 Mar;162(3):591-5.)(Ital J Pediatr. 2015 Nov 11;41:87.)
- 甲状腺機能低下症(全年齢);
①中枢性甲状腺機能低下症
②原発性甲状腺機能低下症/橋本病(Horm Res Paediatr 2017;87:170–8.)
→女性優位でなく、家族性は少ないのが特徴(Hormones (Athens). 2015 Jul-Sep; 14(3):410-6.)
→一般の橋本病患者よりもバセドウ病に移行しやすい(Acta Biomed. 2015 Sep 14; 86(2):137-41.)
のどちらも可能性がある
のいずれの場合もあります。(Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2018 Feb;25(1):61-66.)
その他、
- 目がつり上がっていて小さい、耳の位置が低い
- 白内障、斜視・円錐角膜など弱視
- 40%に先天性心疾患[心室中隔欠損症(VSD)]
- 消化管閉鎖(十二指腸閉鎖や鎖肛):先天性心疾患に次いで多い大奇形
- 白血病
- 固形腫瘍は少ない(成長因子[growth factor)の発現が少ない可能性]
などを認めます。
ダウン(Down)症候群の二大死因は先天性心疾患と呼吸器感染症です。出生後に何度か手術が必要になる場合はありますが、日本での平均寿命は50歳を超えています。
心室中隔欠損症(VSD)は、小児先天性心疾患で最多、5mm以下の穴は無症状が多く、 90%が10歳までに自然閉鎖。成人しても手術必要としない方もいますが、糖尿病の免疫不全あると感染性心内膜炎 の危険があります。逆流性収縮期雑音が特徴的です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)には妊活中、不妊治療中、妊娠中の甲状腺機能低下症の方が多く来院されていますが、時々、勘違いをされている方がおられます。
(X)甲状腺機能低下症の母親からでダウン症の子供が生まれる
(〇)ダウン症の子供は甲状腺機能低下症になる確率が高い
確かに、例え軽い甲状腺機能低下症(潜在性甲状腺機能低下症)であっても、不妊・流早産、妊娠高血圧、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)・子癇前症、骨盤位・前置胎盤、常位胎盤早期剥離、周産期死亡などのリスクが増加します。軽くない甲状腺機能低下症(顕在性甲状腺機能低下症)では、それに加えて妊娠糖尿病のリスクが上がり、無事出産しても児の脳に障害が出たり、知能指数が低くなる危険性が高くなります。
しかし、母親の甲状腺機能低下症が原因でダウン症の子供が生まれる医学的な根拠はありません。子供がダウン症になる原因として一番有名なのが高齢妊娠をはじめとする卵子の劣化です。
また、ダウン症の原因の一つに母体の葉酸代謝異常が関与していて、妊活中の葉酸摂取でダウン症のリスクを減らせる可能性が報告されています(Downs Syndr Res Pract. 2008 Oct;12(2):93-7.)。
ターナー症候群とは
ターナー症候群は、2,500人に1人の頻度で起きるX染色体の欠失(45,XO)・構造異常が原因で、女性のみに発症します。症状は
- 性腺機能不全、卵巣機能不全による二次性徴障害、月経異常、不妊(90%)
- 低身長(100%);成長ホルモン(GH)欠乏が原因ではないが、成長ホルモン(GH)補充療法の適応
- 特徴的身体兆候(翼状頸、外反肘など)
- 骨粗鬆症
- 糖尿病
- 甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症/橋本病;43.8%に認める(J Endocrinol Invest. 2011 Apr;34(4):260-4.)
- 肥満傾向
- 大動脈弁閉鎖不全症(AR)、僧帽弁逸脱、大動脈二尖弁大動脈縮窄症、大動脈瘤などの心・血管系障害[Eur J Pediatr. 2013 May;172(5):703-5.]
- 馬蹄腎などの腎・腎血管系の奇形(Acta Paediatr Jpn. 1987 Aug;29(4):622-6.)
ターナー症候群の治療は、
- 卵巣機能不全に女性ホルモン補充療法(カウフマン療法)
- 低身長に成長ホルモン(GH)の補充療法
ターナー症候群の低身長
ターナー症候群の低身長は、成長ホルモン(GH)欠乏が原因でなく、X染色体の偽性常染色体領域のDNA配列(ハプロタイプ)の異常が原因の一つとされます(Nat Genet. 1997;16:54–63.)(Indian J Endocrinol Metab. 2016 Jul-Aug;20(4):573-4.)
しかし、成長ホルモン(GH)補充療法が低身長の治療に有効です。
ターナー症候群と甲状腺
ターナー症候群で甲状腺の病気、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症/橋本病の合併率が高い(43.8%)とされます。(J Pediatr Endocrinol Metab. 2015 Jan;28(1-2):201-5.)(J Endocrinol Invest. 2011 Apr;34(4):260-4.)
6~18歳のターナー症候群の女の子の26.8%で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)のいずれか、あるいは両方が陽性。(Adv Exp Med Biol. 2017;1022:71-76.)
ターナー症候群と腫瘍、発がん
87人のターナー症候群患者のうち14人に計17個の腫瘍が見つかり、内訳は皮膚腫瘍6個、中枢神経系腫瘍3個、生殖腺腫瘍3個、乳房腫瘍2個、肝癌1個、膵臓癌1個、甲状腺濾胞癌1個。(Eur J Med Genet. 2016 May;59(5):269-73.)
クラインフェルター症候群は、約1,000人に1人の頻度で男性のみに発症する性染色体異常。X染色体が複数存在する47,XXY(もしくは48,XXXY、49,XXXXYなど)の染色体になります。
クラインフェルター症候群の症状は、
- 高身長・やせ型・長い手足で病気と気付かれない事も多い
- 男性ホルモン量が低下し、性腺発育不全、無精子症(男性不妊症)
- 男性ホルモン量が低下し、骨粗しょう症、筋力低下、女性化乳房
- 乳癌
- 甲状腺機能低下症
- 自己免疫性副腎機能低下症(アジソン病)(Autoimmunity. 2015 Mar;48(2):125-8.)
- 1型糖尿病(Autoimmunity. 2015 Mar;48(2):125-8.)
- 関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス(Autoimmunity. 2015 Mar;48(2):125-8.)
- 尿道下裂や停留精巣
- 男性不妊症;ほぼ必発
クラインフェルター症候群の治療は男性ホルモン補充療法
クラインフェルター症候群と甲状腺
クラインフェルター症候群の甲状腺機能低下症は、
- 中枢性(下垂体性)甲状腺機能低下症;13人中9人がTRH試験(TSH放出ホルモン試験)で低反応(Endocrine. 2017 Feb;55(2):513-518.)
- 原発性甲状腺機能低下症;クラインフェルター症候群の慢性甲状腺炎(橋本病)の有病率は7%程度と低い(J Endocrinol Invest. 2019 Mar 25.)
の両方の病態があります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。