甲状腺癌の腫瘍マーカー[カルシトニン,CEA,ガストリン放出ペプチド(ProGRP),神経特異エノラーゼ(NSE)] [橋本病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年1回どこかで開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
甲状腺髄様癌は甲状腺超音波エコー検査・細胞診断も当てにならないが、血中カルシトニン・CEAはほぼ100%高値になる腫瘍マーカー。血清カルシトニン正常の時、FNA-CT (カルシトニン)、カルシウム負荷試験、免疫染色で解決。甲状腺髄様癌以外でカルシトニン高値は肺小細胞癌、カルチノイド症候群、褐色細胞腫、骨髄腫、慢性腎不全。カルシトニン正常でCEA高値なら①甲状腺機能低下症・糖尿病・喫煙・加齢・腎不全・肝硬変②肺癌、胃癌、大腸癌の甲状腺転移(転移性甲状腺癌)③他臓器癌。ガストリン放出ペプチド(ProGRP),神経特異エノラーゼ(NSE)も甲状腺髄様癌で上昇。
Keywords
甲状腺髄様癌,カルシトニン,CEA,腫瘍マーカー,カルシウム負荷試験,甲状腺機能低下症,ProGRP,ガストリン放出ペプチド,神経特異エノラーゼ,NSE
カルシトニンは甲状腺で作られるホルモンで、甲状腺髄様癌はカルシトニンを作る細胞が癌化したものです。
血中カルシトニンはCEAと共に甲状腺髄様癌でほぼ100%高値になる腫瘍マーカーです([Calcitonin, procalcitonin].Nagasaki T, Inaba M.Nihon Rinsho. 2005 Aug;63 Suppl 8:295-9)。
その反面、
- 甲状腺髄様癌の細胞診断は容易でなく、45.7-63%の診断率とされます(J Surg Oncol.2005;91:56-60, Endocr Pract.2013;19:920-7.)(甲状腺髄様癌の細胞診)
- 甲状腺髄様癌の超音波検査(エコー)所見は、特徴的な所見を欠くことが多いため、簡単に診断できません[甲状腺髄様癌の超音波検査(エコー)]。
甲状腺髄様癌は、甲状腺超音波(エコー)検査・細胞診断も当てにならないため、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺腫瘍が見つかれば、カルシトニンとCEAを測定します。
※カルシトニンの測定結果が出るのに1週間要するため、他の甲状腺専門病院/クリニックでは、通常測りません。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、絶対に甲状腺癌を見逃してはならないと考えているため、カルシトニンとCEAを測定し、1週間後に再診していただきます。
※大阪の国民健康保険では、「甲状腺髄様癌の疑い」でCEAをカルシトニンと同時に測定する事を認めていません(筆者は、国民健康保険のレセプト審査員の医者から減点査定を食らいました。すなわち、測定したCEAを当院の赤字にされました。)。医学生が使う教科書でさえもカルシトニンとCEAが上昇すると書いてあるのに・・・・。そのような理不尽な理由で、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、国民健康保険の方にCEAを測定できなくなりました。社会保険(会社の保険)では、カルシトニンとCEAの測定を認めています。
甲状腺髄様癌以外でカルシトニンが高値になる場合
甲状腺髄様癌以外でカルシトニンが高値になる場合、
の可能性があります。また、甲状腺髄様癌と1.の神経内分泌細胞由来の腫瘍では、カルシウム負荷試験でカルシトニン分泌が上昇するため、2.のカルシトニン高値と鑑別できます。
甲状腺髄様癌が疑われる腫瘍を穿刺細胞診した際、穿刺した針先を0.5mL の生理食塩水で洗浄し、液中のカルシトニン濃度を測定[FNA-CT (カルシトニン)]。[Thyroid. 2007 Jul;17(7):635-8.][Diagn Cytopathol. 2016 Jan;44(1):45-51.]
隈病院では、
- カットオフ値を 1000 pg/mL にすると感度96.4%・特異度100%
- カットオフ値を 100 pg/mL にすると感度100%・特異度98.9%
との事です[Thyroid. 2007 Jul;17(7):635-8.]。
カルシウム負荷試験の意義
血清カルシトニンが正常範囲内であっても、カルシウム負荷試験でカルシトニンの有意な上昇を認めれば、甲状腺髄様癌と診断できます。
甲状腺腫瘍が甲状腺髄様癌と確定できない時
甲状腺髄様癌が疑われるものの、血清カルシトニンが正常、穿刺細胞診でも診断できず、FNA-CT (カルシトニン)も正常、カルシトニン免疫染色して欲しいが病理診断科は面倒くさがって動かない、ヨードMIBGシンチグラム(I-123 MIBGシンチグラフィー)は副腎褐色細胞腫の精査を兼ねるなら行えるが陽性率は低い、オクトレオチドシンチグラフィ(オクトレオスキャン)は分化型甲状腺癌(乳頭癌、濾胞癌)と鑑別できない。
最後は、カルシウム負荷試験が切り札になります。筆者の経験した症例ですが、MEN 2A型の家系、甲状腺超音波(エコー)検査は典型的甲状腺髄様癌なのに、カルシウム負荷試験までしなければ診断不可能でした。
MEN 2A型、遺伝性甲状腺髄様癌の家系が遺伝子診断で確定しているが、甲状腺超音波(エコー)検査で腫瘍を認めない
MEN 2A型が遺伝子診断で確定しているが、甲状腺超音波(エコー)検査で腫瘍を認めず、もちろん血清カルシトニンも正常値。このような場合でも、甲状腺内には、目には見えない甲状腺微小髄様癌や前癌段階のC細胞過形成が存在する可能性があります。カルシウム負荷試験を行えば、早期に進行する前の甲状腺髄様癌を見つける事も可能です。(内分泌甲状腺外会誌 31(2):144-149,2014)
カルシウム負荷試験の実際
内分泌検査実施マニュアル(診断と治療社)に、カルシウム負荷試験の陽性判定基準は
- 「カルシトニン頂値が 300pg/mL 以上」
- 「健常者はカルシトニン基礎値と変化なし」
と記載されています。
- 「基礎値の3倍以上か、カルシトニン頂値が 100 pg/mLを超える場合」
とする判定基準も存在します。
現在、カルシトニンの測定方法がECLIA法に変更され、基準値が変わっているため、300 pg/mL、100 pg/mLと言った基準は使用できず、ECLIA法を用いた具体的な数値も存在しません。CLIA法を用いた海外での論文は存在し、それに準じて行うのが良いと思います(J Clin Endocrinol Metab. 2014 May;99(5):1656-64.)。
血清カルシトニンが正常範囲内の甲状腺髄様癌(免疫染色で解決)
「血清カルシトニンは、甲状腺髄様癌においてほぼ100%高値になる腫瘍マーカー」です。逆に言うと1%未満の確率で、血清カルシトニンが正常範囲内の甲状腺髄様癌も存在します。報告症例は18 mm大の増大する結節で、細胞診にて甲状腺髄様癌に特徴的な紡錘形の異型細胞を認めるのに、血清カルシトニン、CEA、クロモグラニンAいずれも基準範囲内。カルシトニン分泌を促すペンタガストリン負荷試験、カルシウム負荷試験、TRH 負荷試験いずれもカルシトニンの有意な上昇は認めず。細胞診標本の免疫染色だけがカルシトニン、CEA 陽性だったそうです。(第55回 日本甲状腺学会 P2-04-06 血清カルシトニンが基準範囲内で、ペンタガストリン負荷試験、カルシウム負荷試験でも上昇反応の見られなかった甲状腺髄様癌の1 例)
細胞診標本の免疫染色(カルシトニン、CEA、クロモグラニンA染色)は有用な診断法です[Thyroid. 2004 Jun;14(6):468-70.][J Histochem Cytochem. 1988 Aug;36(8):1031-6.][Pathol Res Pract. 1992 Feb;188(1-2):123-30.]
細胞診標本の免疫染色(カルシトニン、CEA、クロモグラニンA染色)ができない場合、FNA-CT (カルシトニン)は非常に有用な方法です。他にも、褐色細胞腫で用いられるI-123 MIBGシンチグラフィーは甲状腺髄様癌でも陽性になります。オクトレオチドシンチグラフィ(オクトレオスキャン®)は、分化型甲状腺癌(乳頭癌、濾胞癌)でも、甲状腺髄様癌と同率で陽性(陽性率40~75%)になるため意味がありません。[Digestion. 1996;57 Suppl 1:36-7.][Neuroendocrinology. 2009;90(2):184-9.][ヨードMIBGシンチグラム(I-123 MIBGシンチグラフィー)/オクトレオチドシンチグラフィ(オクトレオスキャン)]
CEA(癌胎児性抗原)は分子量約18万の糖蛋白で、主として腺癌(胃癌、大腸癌、胆のう癌、、胆管癌、膵癌、肺癌、子宮がん、乳がん)患者に上昇する腫瘍マーカーとして有名です。CEAは甲状腺髄様癌でも上昇します。また、腺癌(肺癌、胃癌、大腸癌、乳がん)の甲状腺転移(転移性甲状腺癌)でも上昇します。
カルシトニン正常でCEAのみ高値の場合
甲状腺腫瘍が存在し、カルシトニン正常で血中CEAのみ高値の場合、何を疑うべきか?
CEA高値がⓐ転移性甲状腺癌、ⓑ甲状腺腫瘍とは無関係と考えられたら
[長崎甲状腺クリニック(大阪)は総合内科でないので、対処できませんが]総合内科にて、肺・腹部CT(全身CT)、腹部超音波(エコー)検査、解決しなければ、婦人科で子宮・卵巣・乳腺検査、泌尿器科で膀胱・前立腺検査して、しらみつぶしに調べるしかありません。それでも何も見つからなければ、FDG-PET/CTするしかないでしょう。
人間ドックのオプション、腫瘍マーカーCEA高値だが、その他何も異常ない➡甲状腺機能低下症・甲状腺髄様癌かも
CA19-9(糖質抗原19-9;シアリルルイス抗原)は、胆管、消化管粘膜などの外分泌腺に発現しており、膵癌・胃癌・大腸癌・肺腺癌などの腫瘍マーカーになります。甲状腺髄様癌以外の甲状腺疾患でも上昇します。
CA19-9は、甲状腺髄様癌における予後不良因子です(J Clin Endocrinol Metab. 2013 Sep; 98(9):3550-4.)(Thyroid. 2011 Aug; 21(8):913-6.)
CEAと同様に、CA19-9は本来、上皮細胞で産生されるため、神経内分泌細胞の甲状腺髄様癌においては分化度が低いケースで産生されると考えられます。血清CA19-9値は、カルシトニン値とは無関係の甲状腺髄様癌死亡率の予測値です(Eur J Endocrinol. 2015 Sep; 173(3):297-304.)
甲状腺髄様癌が予後不良となるCA19-9(Elecsys,Cobas®、正常範囲<37 U/mL)のカットオフは18.3 U/mL 感度83%、特異度91%とされます(Eur Thyroid J. 2019 Jul;8(4):186-191.)。
ガストリン放出ペプチド前駆体(Pro GRP)は、早期の小細胞肺癌の腫瘍マーカーです。最近、甲状腺髄様癌や膵内分泌腫瘍における有用性も示唆されています。腎で代謝されるため、腎不全で偽陽性例になる事があります。
神経特異エノラーゼ(NSE) :神経内分泌細胞由来の腫瘍(小細胞肺癌、甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、インスリノーマなど)で産生される腫瘍マーカーです。
神経特異エノラーゼ(NSE) は癌でなくても上昇する場合があるので紛らわしい。例えば、腎不全・溶血でも上昇します。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,浪速区,天王寺区も近く。