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甲状腺と徐脈性不整脈、J波症候群[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。心臓疾患の診療を行っておりません。

甲状腺:専門の検査治療/知見 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編    動脈硬化編  甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など)  糖尿病編 をクリックください。

ブルガダ症候群と右脚ブロック

Summary

甲状腺機能低下症では心拍出量(心臓が血液を押し出す力)、心拍数(心臓が1分間に打つ回数)が低下し徐脈(遅い脈)になる。甲状腺機能低下症による徐脈で胸部圧迫感など心筋梗塞様症状を感じることも。甲状腺ホルモンを正常に戻しても失神を伴う洞不全症候群、完全房室ブロック、徐脈頻脈症候群が改善しないと恒久的ペースメーカーの適応。甲状腺未分化癌が心臓転移すると高度徐脈・高度房室ブロックに。右脚ブロックは甲状腺疾患でおこる心筋梗塞/心筋症の事も。J波症候群は低体温症甲状腺機能低下症粘液水腫性昏睡)、甲状腺中毒症の交感神経刺激でも起こる。

Keywords

甲状腺機能低下症,徐脈,洞不全症候群,完全房室ブロック,徐脈頻脈症候群,甲状腺未分化癌,右脚ブロック,甲状腺,J波症候群,低体温症,粘液水腫性昏睡

甲状腺と心臓

心臓は1日約10万回、規則正しくポンプのように動いて全身に血液を循環させます。甲状腺ホルモンは心臓に直接的・間接的に作用するため、甲状腺機能異常により不具合が生じる可能性があります。

甲状腺ホルモンが心臓に作用する主な機序は、

  1. 心筋細胞は甲状腺ホルモン受容体(TR)が多く、甲状腺ホルモンが受容体を介し心臓を刺激
  2. 甲状腺ホルモンが直接心筋細胞膜に作用し刺激(non genomic action)
  3. 甲状腺ホルモンが交感神経の活動性を高め、間接的に心臓を刺激
  4. 甲状腺ホルモンは腎臓に作用し、体内へナトリウム(塩分)を取り込む(腎尿細管でのNa/K-ATPase活性を高め、ナトリウム再吸収を促進)ため循環血液量が増え、間接的に心臓に負荷を掛ける

そのため、循環器系は他の臓器より甲状腺ホルモンの影響を受けやすいです。

長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺の初診の方は、心電図も録らせていただきますので、足首の出る服装でお越しください。

甲状腺機能低下症による徐脈

甲状腺ホルモンは心臓を刺激し、心拍出量(心臓が血液を押し出す力)、心拍数(心臓が1分間に打つ回数)を高めます。甲状腺機能低下症では、それらの作用が低下し徐脈(遅い脈)になります。

徐脈になっても、全身の代謝も低下しているので、徐脈自体は治療の対象となりません。

甲状腺機能低下症による徐脈で心筋梗塞様症状

筆者も時々遭遇しますが、甲状腺機能低下症による徐脈を胸部圧迫感と感じることがあります。その際、甲状腺機能低下症による筋酵素CK(CPK)上昇があると、急性冠症候群(心筋梗塞・不安定狭心症)との鑑別が問題になります。もちろん、心電図で急性冠症候群(心筋梗塞・不安定狭心症)を疑うような変化はなく、筋酵素CK(CPK)も心筋由来のCK-MBではありません。[例え、骨格筋由来のCK(CPK)上昇でも、連鎖的にCK-MBが正常範囲をやや超えるため、長崎甲状腺クリニック(大阪)では心筋トロポニンT or 心筋トロポニンIを測定するようにしています(ただし、発症後3-5時間経たないと上昇しない)。

(第56回 日本甲状腺学会 1-076 胸部圧迫感とCK 上昇を機に診断された橋本病の1 例)

甲状腺ホルモンを正常に戻しても徐脈

甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺機能低下症を治療して、甲状腺ホルモンレベルが正常に戻っている状態で、

  1. 洞不全症候群(下記)
  2. 完全房室ブロック
  3. 徐脈頻脈症候群:洞不全症候群に頻脈性不整脈[発作性心房細動(Af)、心房粗動(AF)、心房頻拍(PAT)、発作性上室性頻拍(PSVT)]が合併したもので、抗不整脈薬を投与すると徐脈が重篤化

を認めるなら、恒久的ペースメーカー適応。

完全房室ブロック
徐脈頻脈症候群

洞不全症候群

洞不全症候群は、心臓が収縮する刺激を作り出す洞結節の異常で、

  1. 洞徐脈
  2. 徐脈と頻拍性不整脈が交互に生じる徐脈頻脈症候群
  3. 洞停止、洞休止;心電図上、数秒から数分間、P波が消失。心房または房室接合部で代償的にペーシングが起これば症状が起こらない場合もあります
  4. 洞房ブロック

などのパターンを取ります。

通常の甲状腺機能低下の徐脈で洞不全症候群になりませんが、粘液水腫性昏睡で洞不全症候群を起こした報告があります。もちろん甲状腺機能の正常化と伴に治癒しました。(J Gen Fam Med. 2019 Jun 25;20(5):206-208.)

重度の洞不全症候群は、脳血流不全による、めまい・失神が起こります(Adams-Stokes 症候群)。不整脈が正常に戻るとほとんどの場合で意識が回復しますが、てんかんによる失神(欠神発作;けいれんを伴わない意識途絶)では意識がもうろうとしたままの事が多いです。

血管迷走神経反射による神経調節性失神(神経起因性失神;朝礼の時などにクラクラと倒れ、よく"貧血"と呼ばれるもの)と勘違いすると大変な事になります[特に、頸動脈洞反射(頸動脈洞過敏)は甲状腺疾患が原因の場合がある]。その他、鑑別として心原性失神(他の不整脈、心臓弁膜症狭心症・心筋梗塞急性大動脈解離・大動脈瘤など)、一過性脳虚血発作(TIA)鎖骨下動脈盗血症候群、心因性失神があります。

重度の洞不全症候群は、代償的のペーシングから心房細動(Af)に至る事も多いです。

失神の既往があり①脈拍30台 ②QT時間0.5秒以上(心室頻拍へ移行の危険)が改善しないと恒久的ペースメーカー適応になります。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の頻脈で洞不全症候群がマスクされている事があります。治療して甲状腺ホルモンが正常化すると、本来の洞不全症候群に戻ります。怪我の功名で過剰な甲状腺ホルモンがペースメーカー的な役割をしていたのです。

房室ブロック

完全房室ブロックでは、心房と心室の同時収縮が起きた時のみI音(心房と心室の間の弁が閉鎖する音)の大砲音が聴取できます。

II度またはIII度の房室ブロック(AVブロック)および徐脈性不整脈(心拍数40回/分)の患者のうち、4.3%が甲状腺機能低下症、3.1%が甲状腺機能亢進症でした。これら甲状腺機能障害をもつ患者の

  1. 54%は完全AVブロック
  2. 26%は徐脈性不整脈(心拍数40回/分)
  3. 20%は第3-4度AVブロック
  4. 80%は甲状腺機能障害と無関係
  5. 20%は甲状腺機能障害と関連
    その4割はペースメーカー留置後もAVブロックを認めた。
    その88%は恒久的ペースメーカー留置
    その12%はペースメーカー移植手術を受けなかったが、完全房室ブロック、あるいは徐脈のままです。

[J Cardiol. 2012 Oct;60(4):327-32.]

甲状腺未分化癌で高度徐脈・高度房室ブロック

甲状腺未分化癌が縦隔浸潤あるいは転移し、心臓にまで到達すると、高度徐脈・高度房室ブロックをおこし、癌死の原因になります。(第58回 日本甲状腺学会 P1-6-1 高度房室ブロックを呈した甲状腺未分化癌心臓転移の1例)

甲状腺癌による転移性心臓腫瘍

Wenckebach型II度房室ブロックと高度房室ブロック

心電図は

  1. Wenckebach型II度房室ブロック;12-13拍目のPQ延長
  2. 高度房室ブロック;2-5拍目はP波のみでQRSが脱落

で「気の遠くなるようなめまい」が姿勢(立位・座位・頭位)・動作(歩行・静止)と関係なく生じます。

本当は怖い右脚ブロック

右脚ブロックと甲状腺

右脚ブロックは、健康人の1%、60代以上の5%でみつかる心電図異常です。よって、たまたま甲状腺疾患と併発する事があります。多くは問題なく、日常生活に影響ありません。しかし、

  1. 右脚ブロックにST上昇とくれば,突然死の可能性が高いBrugada症候群。以前から職場の健診で右脚ブロックを指摘されいる人の中にBrugada症候群が混じっている可能性があります。
  2. 先天性心臓病・甲状腺疾患でおこる心筋障害(心筋梗塞/心筋症)、肺性心によることがあります。

J波症候群

J波症候群は、早期再分極による心室細動(Vf)・心停止に至る危険な状態です。心電図では徐脈、J波(Osborn波)が特徴です。原因は、

  1. 甲状腺機能低下症/橋本病(下記)
  2. 低体温症甲状腺機能低下症粘液水腫性昏睡以外、内分泌疾患(下垂体機能低下症副腎皮質機能低下症)、低血糖、低栄養などでおこります。
  3. ブルガダ(Brugada)症候群
  4. 甲状腺中毒症の交感神経刺激(第58回 日本甲状腺学会 P2-7-6 破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症とJ波症候群を伴った心肺停止の1例)
  5. 交感神経破壊を伴う頸部根治手術後(頚部に広範囲に浸潤した甲状腺癌の手術)
J波症候群

甲状腺機能低下症/橋本病と甲状腺

ブルガダ心電図波形を示した甲状腺機能低下症/橋本病の報告があります。甲状腺機能の正常化とともにブルガダ心電図波形は消失。甲状腺ホルモンがNaチャネルに影響する証左と言えます。(Endocr J. 2008 Jul;55(3):589-94.)(Pacing Clin Electrophysiol. 2012 Aug;35(8):e222-5.)

ブルガダ心電図波形を示した甲状腺機能低下症

若者の突然死ブルガダ(Brugada)症候群(ポックリ病)

ブルガダ(Brugada)症候群は、若年~中年男性(日本では全体の約95%)が安静時と夜間睡眠中に心室細動(VF)を起こし突然死する疾患(ポックリ病)です(J Am Coll Cardiol 20(6):1391-1396,1992.)。日本を含むアジア圏の有病率は0.15%程度で欧米よりはるかに多い。突然死の家族歴があります。

ヒト心筋Na+ チャネルαサブユニット遺伝子のSCN5Aが原因遺伝子とされます。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺もそうですが、イオンチャンネル異常はアジアの若年男性に多いですね)

以前から職場の健診で右脚ブロックを指摘されいる人の中にブルガダ(Brugada)症候群が混じっている可能性があります。また、若年のため、職場の健診も含め心電図を撮った事もなく、ブルガダ(Brugada)症候群が見つからない人もいます。

よく問診すると、「以前、目の前が真っ暗になった事がある」など眼前暗黒感を自覚している可能性があります。

発作性心房細動を合併することが多く、心電図異常を見逃さない[特徴的なJ波(Osborn波)を認めます(前項)]。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病にブルガダ(Brugada)症候群が合併した報告があります。偶然合併した可能性が高いですが、甲状腺ホルモンが心室細動(Vf)を誘発する危険性を考慮し、甲状腺全摘手術になりました。(BMJ Case Rep. 2015 Dec 30;2015. pii: bcr2015212351.)

甲状腺機能亢進症・バセドウ病にブルガダ(Brugada)症候群が合併

ブルガダ(Brugada)症候群の治療は植込み型除細動器(ICD)のみです。心室細動(VF)の既往があると再発率は年間約10%のため植込み型除細動器(ICD)の絶対適応となります。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療    長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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