甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)骨転移の治療[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)骨転移シンチグラフィー(J Nucl Med 2007 Jun 48(6) 889-95.)
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺癌骨転移の治療を行っておりません。
Summary
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)骨転移の治療は①手術切除(出血、麻痺などで不可能な事も)②腫瘍栄養血管塞栓術③甲状腺全摘術ができればアイソトープ(I-131)治療(無理なら放射線外照射)④ビスフォスフォネート剤(顎骨壊死に注意)⑤分子標的薬で抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®);甲状腺癌骨転移の骨関連事象(SRE;骨転移による麻痺や骨折など)の予防・遅延効果⑥放射線治療無効なら分子標的治療薬の受容体型チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)];肺・リンパ節転移に効き易い反面、骨転移に効き難い。
Keywords
甲状腺分化癌,乳頭癌,濾胞癌,骨転移,治療,ビスフォスフォネート,顎骨壊死,抗RANKL抗体,デノスマブ,プラリア
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)骨転移は、他臓器がんの骨転移と比べ、生存期間が長いため、骨転移に対する治療は長期になります。そのため、骨痛のコントロール、機能障害の治療が重要になります。
脊髄圧迫による麻痺を呈している場合、まず除圧固定術を考慮します。
甲状腺癌脊椎転移巣を手術切除するケースがあります(腫瘍掻爬&セメント充填術など)。甲状腺癌は血管に富むため出血量が多くなり、大量出血のリスクが高く外科的切除不可能と判断される事もあります。
腰椎転移では手術による下肢麻痺の出現リスクが高く外科的切除不可能と判断される事もあります。
その他、荷重のかかる骨(下肢の骨など)への転移は、骨折予防のため整形外科的手術も考慮されます。
金沢大学整形外科で開発された根治的腫瘍脊椎骨全摘術(Total en bloc spondylectomy:TES)は、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)、甲状腺髄様癌多発骨転移に対して行われるケースもあります。[J Neurosurg Spine. 2011 Feb;14(2):172-6.]
おそらく癌専門施設でしか行えないでしょうが、腫瘍栄養血管塞栓術・骨セメント注入療法も有効な治療法です。[Nucl Med Rev Cent East Eur. 2007;10(2):106-9.](第56回 日本甲状腺学会 P2-083 甲状腺濾胞癌の腰椎巨大骨転移巣に血管塞栓術が有効であった1 例)
放射性ヨウ素(I-131)治療(内照射)に腫瘍栄養血管塞栓術を組み合わせれば治療効果が増します。[Clin Endocrinol (Oxf). 2000 May;52(5):653-9.][Nihon Geka Gakkai Zasshi. 1990 Jul;91(7):910-3.]
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の大きな骨転移巣に対して、経皮的カテーテル法による選択的動脈塞栓術(ゲル注入)を術前に行い、出血なしに完全切除できた報告があります。下の写真は胸骨転移に対する左内乳腺動脈塞栓術[J Med Case Rep. 2014 Dec 4:8:405.]
甲状腺を全摘すれば、放射性ヨウ素(I-131)治療(内照射)は可能ですが、出来ない場合、放射線外照射が有効。
I-131 アブレーション治療(内照射)+放射線照射(外照射)併用も有効です。
放射性ヨウ素(I-131)が集積する甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)骨転移患者のほぼ3分の1では、放射性ヨウ素(I-131)治療(内照射)単独または局所治療との併用により完全奏功を達成できる。ただし、18FDG PET-CTで集積不良の場合、完全奏功は難しいとの報告があります。[Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2022 Jun;49(7):2401-2413.]
最近、分子標的薬:抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)の保険適応が、多発性骨髄腫による骨病変および固形癌骨転移による骨病変に対して承認されました。ビスフォスフォネート剤、デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)は、甲状腺癌骨転移の骨関連事象(skeltal related events: SRE、骨転移の進行による麻痺や骨折など)の予防・遅延効果に有用と考えられています。
RANKLは、破骨細胞分化誘導因子の1つです。分子標的薬の抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)は、骨が溶け出す過程に関与するRANKL受容体を阻害し、破骨細胞の働きを抑える薬です。
デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)は、固形がん骨転移の骨関連事象(skeltal related events: SRE=骨転移の進行による麻痺や骨折など)に対する予防・遅延効果においてビスフォスフォネート剤のゾレドロン酸(ゾメタ®)より優れ、乳癌・前立腺がんなどで実証されています (Lancet. 2011;377:813–822.)(Support. Care Cancer. 2014;22:679–687.)
甲状腺がん骨転移に対しては、データが乏しいものの、保険適応はあります。(J Bone Oncol. 2020 Feb 19;21:100282.)
PS(パフォーマンスステータス) 0 (ゼロ:無症状で社会生活に制限を受けない)、または1 (軽い家事、事務など軽労働はできる)で、全身状態の良い甲状腺がん患者に予防効果が高いとされます。血清カルシウム値が高値でなければ、低カルシウム血症予防のため、カルシウム剤・ビタミンD製剤を併用します。(第57回 日本甲状腺学会 O7-2 甲状腺がん骨転移症例に対する bone modifying agents の使用)
デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)中止後は、リバウンド的な骨吸収(骨破壊)が一過性に亢進し、多発性椎体骨折が現れることもあるので、骨吸収抑制薬ビスフォスフォネート剤の使用をお勧めします。
ビスフォスフォネート剤は甲状腺がん骨転移の骨関連事象(skeltal related events: SRE=骨転移の進行による麻痺や骨折など)に対する予防・遅延効果があるけれども、顎骨壊死の副作用がおきる可能性もあるため使い難い[Thyroid. 2011 Jan;21(1):31-5.]。最近は分子標的薬の抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)使用が増えています。
ビスフォスフォネート剤のゾレドロン酸(ゾメタ®)などが使用されます[Thyroid. 2011 Jan;21(1):31-5.]。
ビスフォスフォネート剤の副作用は
- (経口ビスフォスフォネーに限り)胃粘膜障害、逆流性食道炎[服用後30分は横にならない、ボンビバ錠®(イバンドロン酸)のみ服用後60分]
- ビスフォスフォネート注射は初回に発熱/インフルエンザ様症状(利点は胃粘膜障害・逆流性食道炎、寝たきり、誤嚥性肺炎患者にも投与可能な事)
ビスフォスフォネート剤の重篤(重症)な副作用として
- 顎骨壊死
- 逆説的非定形大腿骨折
があります。
院長の論文
-
Increased levels of serum osteoprotegerin in hypothyroid patients and its normalization with restoration of normal thyroid function.(European Journal of Endocrinology)
骨を守る物質オステオプロテグリン (OPG) は、動脈硬化で上昇します。甲状腺機能低下症/橋本病でも高値ですが、甲状腺ホルモン補充で低下することを医学界で初めて報告しました
ビスフォスフォネート剤、分子標的薬:抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)を甲状腺癌骨転移に使用する際、顎骨壊死の副作用を注意せねばなりません。
顎骨壊死をおこす危険因子は、
- 4年以上にわたるビスフォスフォネート服薬
- 歯石、う蝕、歯周病、歯肉炎
- 橋本病(慢性甲状腺炎)合併シェーグレン症候群の口内乾燥・糖尿病口内症など口腔内雑菌の繁殖があるとおきやすくなります。
- 喫煙、飲酒
- 肥満
- 癌化学療法
- ステロイド内服
顎骨壊死を予防するために、
- 可能な限り、抜歯・歯科インプラントなど顎骨に侵襲がおよぶ治療はビスフォスフォネート剤、デノスマブ(ランマーク®)を投与する前に済ませておく
既にビスフォスフォネート剤投与が開始されている場合、上記の危険因子がある方は、少なくとも3か月前から中止(顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016では2カ月前後)
抜歯・歯科インプラント治療後は、術創部がほぼ治癒する2週間後、感染症が起きていないのを確認し、ビスフォスフォネート投与を再開
- 顎骨壊死の危険因子(糖尿病、喫煙、飲酒、肥満、癌化学療法、ステロイド内服)がある方は、事前に血糖コントロール改善、禁煙、断酒、ダイエット、ステロイドを可能なら他剤へ変更などを行うべき。癌化学療法はどうしようもない
- 予防として、口腔内衛生の保持・うがいによる口腔内雑菌の繁殖予防
甲状腺全摘出していればイソジン・のどスプレーなどヨード(ヨウ素)系で構いません。しかし、正常な甲状腺が残っている場合は、イソジン/ポビドンヨードで甲状腺障害がおきるため、アズレンなど非ヨード(ヨウ素)系を使用。ヨード(ヨウ素)により正常な甲状腺のホルモン産生が低下すれば、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が上昇して遺残する甲状腺癌細胞を刺激。増殖を促進させる危険がある
次項の受容体型チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)とビスフォスフォネート剤の併用により顎骨壊死をおこす危険性が高まるとされます。(J Endocrinol Invest. 2021 Jul 21. doi: 10.1007/s40618-021-01634-0.)
ネクサバール錠®(ソラフェニブ)は、放射線治療抵抗性の甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)において無増悪生存期間を延長。副作用として100%に手足症候群が現れる。レンビマカプセル®(レンバチニブ)は、根治切除不能な甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)、甲状腺髄様癌・甲状腺未分化癌に適応、無増悪生存期間を延長。副作用としては、血管新生阻害作用が強いため高血圧などの血管障害が多い。(「放射線治療無効な甲状腺癌」にネクサバール・レンビマ)
ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)は、転移部位によって効果が異なるとされます。
一般的には、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の肺やリンパ節転移に効き易い反面、骨転移には効き難いとされます。(J Bone Oncol. 2020 Feb 19;21:100282.)(第59回 日本甲状腺学会 P4-6-7 分子標的治療が奏功した放射性ヨウ素不応性甲状腺乳頭癌多発転移例における薬剤および併用療法よる転移部位別の効果の比較)
レンビマ®(レンバチニブ)治療中の抜歯で顎骨壊死を起こしたレンバチニブ関連骨壊死症が報告されています。使用していたのはレンビマ®(レンバチニブ)単独で、ビスフォスフォネート剤、抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)を使用していませんでした。(Int J Oral Maxillofac Surg. 2019 Dec;48(12):1530-1532.)
上顎骨のレンバチニブ関連骨壊死症に、フォトバイオモジュレーションレーザー療法を行い組織治癒に成功した報告(写真)があります。口腔内に骨が露出し、CTでは上顎骨壊死が明瞭、上顎洞にも炎症を認めます。
(J Clin Exp Dent. 2021 Jun 1;13(6):e626-e629.)
甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)に対する放射線外照射は、「腫瘍による症状があり、かつ外科治療や放射性ヨウ素内用療法あるいは分子標的治療薬治療の適応がない症例においては、その緩和を目的として、放射線外照射による治療を推奨する(甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018)」とされています。
放射性ヨウ素内用療法(I-131 内照射)が効きにくい局所残存病変の制御には外照射の方が有効です[Crit Rev Oncol Hematol. 2013 Apr;86(1):52-68.][Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2002 Mar 1;52(3):784-95.]。
四肢の甲状腺癌骨転移に対する放射線外照射で最も期待される効果は、疼痛の緩和で、鎮痛薬の減量が期待されます。
頸部放射線照射(外照射)により
- 頸動脈壁が損傷し破綻出血をおこしやすくなります(carotid blowout syndrome)[Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2021 May 1;110(1):147-159.]。
- 放射線誘発性アテローム性動脈硬化症がおこります。頸動脈狭窄の発生率は、頭頸部癌の放射線治療を受けた患者では18〜38%。カラードップラー超音波検査で検出され、頸動脈血管形成術とステント留置術の血管内治療が第一選択治療。[Radiother Oncol. 2014 Jan;110(1):31-8.]
- 特に、甲状腺癌が頸動脈浸潤していると、病変の壊死・縮小・それに伴う感染などから頸動脈破裂をおこします。[BMJ Case Rep. 2021 Nov 30;14(11):e246084.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。