人工知能(AI)を用いた甲状腺結節・甲状腺腫瘍の超音波(エコー)診断・病理診断[橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用)、橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
Summary
ニューラルネットワークの人工知能(AI)を用いた甲状腺結節・甲状腺腫瘍の超音波エコー診断システムは①腫瘍と不均質さ、ノイズ(アーチファクト)の鑑別が難②人間の経験を教師データとする深層学習(ディープラーニング)のため限界は同じ。判断付かないものを決断できるのは人間だけ。AI画像診断システムが出した答えを最終的に承認するのは医師で甲状腺専門医以外の医師が行ってはならない。人工ニューラルネットワーク(ANN)による病理診断は腺腫様甲状腺腫(腺腫様結節)の乳頭形成を甲状腺乳頭癌と判定する偽陽性はあるが練度の低い病理診断医よりも精度が高い。
Keywords
ニューラルネットワーク,人工知能,AI,甲状腺結節,甲状腺腫瘍,超音波,エコー,診断,病理診断,深層学習
現在、医療分野では識別系AI(人工知能)導入が進められ、放射線科の画像診断、内視鏡診断、病理診断、皮膚疾患の診断、眼底写真の読影などに応用されています。識別系のAIなら使い方次第で大きな恩恵となります。問題は予測系AIによる診断と治療の選択です。患者の検査データ・画像情報から最適の病名、治療法を選び出す事は可能でしょう。しかし、それらは最も確率の高い候補であって、本当に良いかどうかを決めるのは人間です。
AI(人工知能)は
- 経験したこと(教師データ)からしか答えを出せない
- 倫理観、感情を持たないため、人間が予想もしなかった間違い、非倫理的な答えを出す危険性がある
そのことをを忘れず、あくまで最終診断は人間が下さねばなりません。
識別系AI では1次Screening や教育的な目的のため、CAD(Computer Assisted Diagnosis)を応用した超音波(エコー)画像の人工知能(AI)診断が臨床応用されています。
深層学習(ディープラーニング)とは、人間の神経細胞の仕組みを再現したニューラルネットワークで人工知能(AI)に学習させるシステムです。深層学習(ディープラーニング)により得た知識を基に人工知能(AI)が判断(診断)を下します。[Comput Intell Neurosci. 2020 Jul 29;2020:1242781.]
甲状腺の分野では、ACR TI-RADS™(Thyroid Imaging Reporting and Data System™)(Artificial Intelligence to Revise)を用いた甲状腺結節・甲状腺腫瘍の超音波(エコー)診断システムが開発され、FDA等より認可されています。Am-CAD UT®(AmCad BioMed)とS-Detect®(Samsung)もあります。
しかし、このシステムは、自ずと限界があります。そもそも超音波(エコー)画像だけでは、完全に甲状腺結節の良悪性を診断できません。胃・大腸内視鏡検査の肉眼画像と異なり、超音波(エコー)画像は直接病変を見るのでなく、検者がプローブを当てた場所の反射した超音波を信号化し、画像に再構成したものです(要するに影を見ているだけ)。
そのため、
- 人間では簡単な腫瘍と非腫瘍(不均質さ)の鑑別が難しい
- 人間では簡単な不均質さや無エコー領域とノイズ(アーチファクト)の鑑別が難しい
- 超音波診断装置の解像度、画像処理技術の原理(メーカーの特許)の違いにより、ばらつきが大きい
- 検者にしかプローブの位置情報が分からない
などの理由でAI 画像診断システムに適しません。
甲状腺結節・甲状腺腫瘍は、超音波(エコー)で良性に見えても悪性だったり、その逆も日常茶飯事です。どんなに経験を積んだ甲状腺専門医でも乗り越えれない壁なので、人間の経験を教師データとして学習する人工知能(AI)も限界は同じです。判断が付かないものを決断する、これは人間にしかできない事、最後は人間なのです。
そして最も危険なのは、非専門医、非医師がAI 画像診断システムを用いて診断を下す事です。AI 画像診断システムが出した答えを最終的に承認するのは生身の医師です。それには診断医がAI 画像診断システムと同等以上の知識と経験を持っていなければ不可能です。結局、甲状腺専門医以外の医師が行ってはならないのです。
余談ですが、映画「ターミネーター3」で防衛AI システム”スカイネット”の起動を承認してしまった軍人の判断ミスが機械による人間殲滅、「審判の日」の開始点になりました。
[Cancers (Basel). 2021 Sep 22;13(19):4740.][Cancers (Basel). 2021 Sep 22;13(19):4740.]
識別系AI(人工知能)として、甲状腺のみならず全ての領域の病理診断にAI(:人工知能)導入が検討されています。この点については筆者も賛成です。
これは筆者が若かりし頃、とあるアルバイト先の総合病院で実際に体験した話です(本怖みたいやな・・・)。エコーで典型的な甲状腺乳頭癌(甲状腺内転移し3か所の病変)+典型的な転移リンパ節多数に、合計5か所以上の穿刺細胞診を行ったのに、全てがクラス3(グレーゾーン)判定。報告書には院内の病理診断医の名前が入っているものの、本当にちゃんと標本を見たんかい???細胞検査士のスクリーニングで見落とされて病理診断医に回されてないんちゃうん???と思いつつ、これでは外科もオペしてくれないため、甲状腺専門病院へ転院してもらいました。、ほぼ同じ個所の穿刺細胞診は全てクラス5で甲状腺乳頭癌確定。本怖より怖い結末でした。
ちなみに、この件だけでなく、同じ様にエコーで典型的な甲状腺乳頭癌であり、被膜浸潤まで確認できるのに、2か所の穿刺細胞診では「正常または良性(指導医チェック)」「意義不明な濾胞性病変」の判定のこともありました。他院の穿刺細胞診では2か所ともクラス4で甲状腺乳頭癌疑いにつき、無事手術に。
甲状腺乳頭癌の診断率は2回以上あるいは一度に2か所の細胞診をした場合、90%だが[Endocrinol Metab Clin North Am. 2017 Sep;46(3):691-711.]、診断医の練度が標準以上なのが前提です。病理診断にAI(:人工知能)の導入が検討されている理由を実感しました。
話は逸れましたが、 穿刺細胞診で得られた病理標本で、甲状腺乳頭癌とそれ以外の甲状腺結節を鑑別するためのAI(人工知能)、人工ニューラルネットワーク(ANN)は、感度90.48%、特異度83.33%、陰性的中率96.49%、診断精度85.06%とまずまずの成績です。大きな問題点は、腺腫様甲状腺腫(腺腫様結節)の乳頭形成を甲状腺乳頭癌と判定してしまう事です。[J Pathol Inform. 2018 Dec 3;9:43.]
日本では、「深層学習を用いた甲状腺眼症の顔写真診断支援システムの作成」が大阪大学を中心に進められ、成果をあげている様です。[第65回 日本甲状腺学会 HS2-1 深層学習を用いた眼周囲写真からの甲状腺眼症の識別]
顔写真から甲状腺眼症の疾患活動性を予測する機械学習システムも研究されています[Sci Rep. 2022 Dec 21;12(1):22085.]。
ニューラルネットワークを用いた
- 眼窩CT画像の甲状腺眼症活動性評価[Sci Rep. 2023 Aug 10;13(1):13018.]
- 眼瞼自動計測システム[Sci Rep. 2024 Jan 12;14(1):1202.]
も続々開発されています。[Front Endocrinol (Lausanne). 2023 Dec 20;14:1300196.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。