甲状腺と再生不良性貧血[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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写真;再生不良性貧血で、脂肪変性によりスカスカになった骨髄
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。再生不良性貧血の診療を行っておりません。
Summary
原因不明の一次性(自己免疫性)再生不良性貧血と甲状腺機能亢進症/バセドウ病合併で汎血球減少増悪。抗甲状腺薬(メルカゾールのみ)の二次性/薬剤性再生不良性貧血は、自己免疫による骨髄造血細胞の破壊が原因。無顆粒球症の治療開始後、血小板が有意に低下、網状赤血球の増加が無い。重症無顆粒球症に相当、高容量G-CSF 250μg/日以上の投与。抗甲状腺薬中止5-6週で自然軽快する症例が多いが、シクロスポリン必要になる場合も。甲状腺機能亢進症/バセドウ病自体はI-131 アイソトープ治療。
Keywords
再生不良性貧血,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,汎血球減少,抗甲状腺薬,副作用,シクロスポリン,メルカゾール,G-CSF,好中球
再生不良性貧血は汎血球減少(白血球・赤血球・血小板全て減少)と骨髄低形成(骨髄でも、それらが作られない)を呈する病態で、
- 原因不明の一次性、特発性(自己免疫による骨髄造血細胞の破壊?)
- 薬剤や放射線被曝などによる二次性(直接的な骨髄毒性、または自己免疫による骨髄造血細胞の破壊)
があります。
一次性(特発性)の再生不良性貧血と甲状腺機能亢進症/バセドウ病が合併しているケースがあります。一次性(特発性)の再生不良性貧血は骨髄の造血細胞を抑制する自己免疫であるため、バセドウ病が合併しても不思議ではありません(British Journal of Haematology, 2002, 118, 327–329)。
一次性(特発性)の再生不良性貧血が甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併している場合、染色体異常が11%に存在します。
また、甲状腺ホルモンによる代謝亢進により、白血球・赤血球・血小板の消費・ターンオーバーや無効造血が亢進するため(甲状腺ホルモンが正常に近付くにつれて改善)、再生不良性貧血の汎血球減少は増悪します。
抗甲状腺薬(メルカゾール)による二次性/薬剤性再生不良性貧血は、自己免疫を介した骨髄造血細胞の破壊が原因とされます。(Wintrobe’s Clinical Hematology, 13th ed. Philadelphia, PA:Lippincott Williams & Wilkins;2013. pp.965-74.)
抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)による無顆粒球症は珍しくありませんが、二次性/薬剤性再生不良性貧血は稀で報告も少ない。最近30年間、日本で学会誌に報告された症例はわずか18例です(日本甲状腺学会雑誌 9:54-8, 2018)。2019年の時点で、英語論文は36例[メチマゾール(メルカゾール)32例、カルビマゾール(日本では未認可)2例、プロピルチオウラシル(プロパジール、チウラジール)2例]のみです(J ASEAN Fed Endocr Soc. 2019;34(1):99-102.)。
最も新しいデータ(2023年)として、過去30年間における抗甲状腺薬誘発性再生不良性貧血の臨床的特徴をまとめた中国の報告では、
- 合計17例(男性:女性=1:16);圧倒的に女性が多い
- 年齢は16歳から74歳(中央値50歳);全年齢でおこるが、中高年に多い
- 94.1%が抗甲状腺薬開始後6か月以内に発症
- 82.3%(14/17)がメチマゾール(MMI、日本ではメルカゾール)、78.6%がMMI≥30 mg/日の高用量
- 88.2%(15/17例)に咽頭痛と発熱、47.1%(8/17例)に出血症状
- 無顆粒球症(94.1%)は最も一般的で、最も初期の血球変化
- 無顆粒球症患者の47.1%が治療中に進行性血小板減少へ移行
- 治療は、速やかな抗甲状腺薬中止と無顆粒球症の治療。加えて、副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制剤、赤血球輸血や血小板輸血などの支持療法
- 70.6%は、8日から6週間以内に完全寛解または完全寛解に近い状態。速やかな抗甲状腺薬中止と適切な治療で予後良好
※日本の報告と大きく異なるのが予後です。日本の報告では死亡率約10%(感染症で死亡)。
日本国内の報告では、
- 抗甲状腺薬(全例メルカゾール)投与後、平均約50日で発症
- メルカゾール平均投与量は26.8 mg/日(5錠以上)
- 無顆粒球症の治療開始後、血小板数が有意に低下。網状赤血球の増加も認めなければ、薬剤性再生不良性貧血と診断。赤血球寿命が長いため、最初は白血球と血小板減少のみです。
- 大部分の症例は、入院時の好中球数が重症無顆粒球症に相当し、高容量G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子) (250 μg/日以上)が必要
- 好中球数の回復 (500 /μL 以上)までに約11日を要した(完全回復は更に先)
- 抗甲状腺薬中止後5-6週で自然軽快する症例は多いものの、シクロスポリンが必要になる場合もある
- 18例中、2例は死亡(約10%)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病自体はアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療か手術療法(甲状腺全摘出)。
(第54回 日本甲状腺学会 P207 チアマゾール開始後に再生不良性貧血を発症し、薬剤性としては非典型的な経過を辿ったバセドウ病の1例)
(日本甲状腺学会雑誌 9:54-8, 2018)
英語論文で報告されている36例では、
- ほとんどが抗甲状腺薬開始後2〜3ヶ月以内に発症
- 患者の約90%が9〜35日以内に部分的または完全に改善。2例は死亡。生存率94%以上。G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)と高用量グルココルチコイド療法の併用が有効。(Am J Med Sci. 1991 Mar; 301(3):190-4.)
- 重症の再生不良性貧血では、赤血球・血小板輸血が必要。抗胸腺細胞グロブリン(ATG)と免疫抑制剤シクロスポリンが投与されます。(Thyroid. 1997 Feb; 7(1):67-70.)
37例目の報告では、低分子トロンボポエチン受容体刺激薬のエルトロンボパグが使用されました。(J ASEAN Fed Endocr Soc. 2019;34(1):99-102.)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病自体はアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療か手術療法(甲状腺全摘出)
他の抗甲状腺薬への変更は、15.2%で交差反応が起こるため禁忌(J Endocrinol Invest. 1994 Jan; 17(1):29-36.)
抗甲状腺薬による再生不良性貧血と無顆粒球症の違い
抗甲状腺薬による再生不良性貧血と無顆粒球症は、重症度の違いであり、本質的には同一の病態の可能性が考えられ、再生不良性貧血は重症度が高い病態です。 (J Clin Endocrinol Metab. 2012;97:E49-53.)
再生不良性貧血は3系統(顆粒球系,赤芽球系,巨核球系)に対する自己免疫で、無顆粒球症では顆粒球系のみの自己免疫と考えれば説明が付きます。
改訂診断基準案で、再生不良性貧血は
- 臨床所見と末梢血液所見 (Hb<10.0 g/dL,好中球 <1,500/μL未満,Plt<10万/μL のうち少なくとも2つを満たす)より疑う
- 汎血球減少の原因となりうる他の疾患を除外
- 網赤血球数あるいは骨髄穿刺などの検査によって確定診断
となります。
再生不良性貧血の貧血は
- 通常、正球性貧血
- 汎血球減少の遅い慢性型再生不良性貧血の場合、大小不同の赤血球が混在する大球性貧血
再生不良性貧血の典型的な骨髄所見は骨髄低形成ですが、実際、骨髄低形成がなく巨核球減少とトロンボポエチン軽度高値・リンパ球比率の上昇のみの場合がある。
再生不良性貧血の治療法は、
- 軽症;対症療法と蛋白同化ステロイド免疫抑制療法
- 中等症以上
40歳未満は骨髄移植(造血幹細胞移植と甲状腺)
40歳以上は免疫抑制療法で、造血幹細胞を傷害するリンパ球を抑えます。抗胸腺細胞グロブリンと免疫抑制剤シクロスポリン(サイクロポリンA)を使用
再生不良性貧血の治療に限らず、シクロスポリン(サイクロポリンA)による医原性免疫不全症関連リンパ増殖性疾患(LPD)として
- 甲状腺悪性リンパ腫(第66回 日本甲状腺学会 HS2-5 シクロスポリン内服中に発症した甲状腺悪性リンパ腫の1例)
- エプスタイン・バーウイルス関連悪性リンパ腫と甲状腺乳頭癌[Clin Exp Nephrol. 2010 Feb;14(1):94-6.]
腎移植後の長期使用では、甲状腺がんを始めとする発癌率が有意に上がります(腎移植と甲状腺)。
G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤投与は具体例として、G-CSF 100 μg 皮下注(ノイトロジン®等)を連日行います(施設により異なります)。血液中の好中球数が1000/μlを超えれば回復とみなします。(厚生労働省;重篤副作用疾患別対応マニュアル 無顆粒球症)
しかし、抗甲状腺薬による再生不良性貧血の重症無顆粒球症は、G-CSFを200μg/日以上の高用量で投与された症例が多いです(日本甲状腺学会雑誌 9:54-8, 2018)。
参考までに以下は、甲状腺の病気でG-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤を使用する基準です
- 再生不良性貧血/骨髄異形成症候群(MDS)に伴う好中球減少症:好中球数1,000/mm3未満で
- 悪性リンパ腫(甲状腺悪性リンパ腫)造血幹細胞移植時の好中球数の増加促進
- 悪性リンパ腫(甲状腺悪性リンパ腫)、小細胞肺癌:がん化学療法剤投与終了後、翌日以降から
- 甲状腺未分化癌の抗癌剤治療では好中球数1,000/mm3未満で発熱(38℃以上)あるいは好中球数500/mm3未満が観察された時点から
再生不良性貧血に使用するシクロスポリン(CyA)はIL-2 [インターロイキン2(Interleukin-2)] を阻害します。また、橋本病の自己免疫にIL-2 [インターロイキン2(Interleukin-2)]が関与している可能性があります[Immunopharmacol Immunotoxicol. 1999 Feb;21(1):15-39.]。
シクロスポリン(CyA)を急に減量すると、IL-2 [インターロイキン2(Interleukin-2)] がリバウンドで増加し、甲状腺の自己免疫を活性化させ無痛性甲状腺炎を起こす事があります。(第59回 日本甲状腺学会P2-2-3 再生不良性貧血に対するシクロスポリン(CyA)減量中に無痛性甲状腺炎を発症した一例)
破傷風などに抗血清(ヒトのタンパク質ではない)を投与すると、抗体が生成され、再度、抗血清を注射した際にⅢ型アレルギー(血清病)がおこります。抗胸腺細胞グロブリンは異種蛋白(ヒトのタンパク質ではなくウマ・ウサギのタンパク質)であるため血清病をおこします。
橋本病(慢性甲状腺炎)に合併する関節リウマチの治療薬メトトレキサートの副作用に、薬剤性再生不良性貧血があります。腎不全の合併、葉酸欠乏、高齢、低蛋白血症、プロトンポンプインヒビターや利尿薬の併用で起こり易いとされます[Reumatology44:1051-1055(2005)]。治療は、特発性再生不良性貧血に準じます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,浪速区も近く。