甲状腺機能亢進症/バセドウ病とアナフィラキシー[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病とアレルギー
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病とアナフィラキシー(本ページ)
Summary
アナフィラキシーショックが予想される場合、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)を処方。甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病で使用すると不整脈・狭心症・心筋梗塞誘発の危険はあるが、迷わず自己注射しないとその場で死んでしまう。アナフィラキシーは必ずしも皮膚の痒み・発疹とは限らず、悪心・嘔吐・下痢の消化器症状のみ、ヒューヒューと息をする喘息症状のみもある。食物依存性運動誘発アナフィラキシーは原因食物を食べて運動した時のみ起こる。しかも、風邪薬(かぜ薬)・解熱鎮痛剤・降圧薬[アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬]で起こり易くなる。
Keywords
アナフィラキシー,ショック,アドレナリン自己注射,エピペン,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,食物依存性運動誘発アナフィラキシー,アレルギー,甲状腺,アニサキス
アナフィラキシー(アナフィラキシーショック)とは、「複数臓器に、全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」です。原因となる物質(アレルゲン)が体内に入ってから短時間で、じんましん、喘息様症状、血圧低下などの全身に及ぶ激しいアレルギー反応が起こります。
アナフィラキシーの診断基準はアメリカ国立アレルギー・感染症研究所のものが一般的で、
- 皮膚のアレルギー反応(必ずしもあるとは限らない)
- 気道閉塞、喘息で呼吸困難
- ショック状態
- 消化器症状(下痢、嘔吐、腹痛など)
(J Allergy Clin Immunol. 2006 Feb;117(2):391-7.)
アナフィラキシーでは、体血管抵抗低下(当然、中心静脈圧・肺動脈楔入圧も低下)により、心拍出量・心拍数は増加します。
注射やワクチン接種後のアナフィラキシーは、同じく血圧低下する迷走神経反射との鑑別が重要です。典型的には、迷走神経反射では徐脈の傾向、アナフィラキシーショックでは頻脈傾向になります。アナフィラキシーショックでは、他のアレルギー症状(咽頭不快感、喘息)を認めます。ただし、迷走神経反射でも、過呼吸による呼吸困難、悪心嘔吐を起こすので要注意。
アナフィラキシーがおこればアドレナリンを大腿外側(血流豊富な外側広筋)に筋注しますアドレナリン。皮下注は血中濃度上昇に時間がかかるため、静注は異常な血圧上昇・不整脈をきたしやすいため通常は行われません。
学童から成人に新規発症する即時型アレルギーの原因食物は甲殻類/魚、小麦/ソバ、 果物/ピーナッツが多く、 耐性獲得率は低く完治しません。
ある年、突然花粉症を発症するように、それまで大丈夫だった食物に対して急にアレルギー反応を示すようになることは珍しくありません。体調によって症状が出たり出なかったりする場合もあります。
アナフィラキシー治療の第一選択薬はアドレナリンです。アドレナリンは、アレルギーの元になる肥満細胞からの脱顆粒を抑制します。
アナフィラキシー時には症状があれば、たとえバイタルが正常でもエピペン®を投与します。アドレナリンは
- 末梢血管を収縮し血圧を上げる
- 心臓を刺激し血圧・心拍数を上昇
- 気管支を拡張し肺の酸素交換を改善
させるだけでなく、肥満細胞や好塩基球のβ-2受容体も刺激し、アレルギーを引き起こすヒスタミンやケミカルメディエーターの遊離を抑えます。
アナフィラキシーショックは血管抵抗が低下し、血管が拡張、相対的に循環血液量が足りなくなる血液分配性ショックで、点滴による細胞外液の補充は必須です。アドレナリン自己注射薬(エピペン®)でその場をしのいでも、必ず救急外来を受診する必要があります。
アナフィラキシーにおけるアドレナリン筋注は、0.1%アドレナリン0.01mg/kg(最大量:成人0.5mg、小児0.3mg)ですが、エピペン®の規格は、0.3mと0.15mgです。症状に応じて、必要なら5~15分毎に再投与します(ただし、医師以外の判断で行うのは難しいです)。
蜂に刺されアナフィラキシーショック
蜂に刺されアナフィラキシーショックをおこす蜂毒アレルギーなどにもアドレナリン自己注射薬(エピペン®)が使用されます。蜂毒には多数のアレルゲンとなるタンパク質が含まれています。
日本では蜂毒アレルギーによるアナフィラキシーショックで年間約20人が死亡しています。
また、ハチ毒とムカデ毒は構造が似ていて交差反応をおこします。どちらかにアレルギー反応あれば、もう片方にも反応します。
さらに蜂毒はミツバチ類、アシナガバチ類、スズメバチ類に分類され、アシナガバチ類、スズメバチ類の毒成分は似ているためどちらかに刺された経験がある人は、初めて他方に刺された場合でもアナフィラキシーを生じる可能性があります。ただし、同種の蜂に刺されるより軽症で済みます。
蜂毒アレルギーのある人が、蜂に襲われる危険がある場所にどうしても行かねばならない時は、白に近い服にした方が良い。ハチは黒や黒に近い色を攻撃しやすいとされます。理由は解明されていませんが、蜂の天敵の熊(ハチの巣を襲って蜂蜜を奪う)が黒いからと考えられています。
減感作療法[アレルゲン(蜂毒成分)を長期間注射し、アレルギー反応を軽くする方法]も一部でおこなわれているようです。
β(ベータ)ブロッカー服薬中の甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者ではエピペン®が効きにくい
β(ベータ)ブロッカーは本来、高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症の薬で、甲状腺ホルモンが正常化していないバセドウ病/甲状腺機能亢進症の高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症/心筋梗塞、たこつぼ型心筋症を防ぐ目的で使用されます(β(ベータ)ブロッカー)。
β(ベータ)ブロッカー服薬中の
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者
- 甲状腺の病気と関係なしに高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症/心筋梗塞患者
はエピネフリン(エピペン®)が作用すべき交感神経のβ(ベータ)受容体がブロックされているため、
- 効きが悪くなります。
- α作用のみが増強され、高血圧発作や脳出血の危険性が報告されています。
β(ベータ)ブロッカー服薬中のアナフィラキシーには、エピネフリン(エピペン®)とグルカゴン併用が良いとされますが、日本では保険適応がありません。グルカゴンは交感神経を介さずにサイクリックAMPを増やして心機能を上げます。アドレナリンの効果が乏しく、低血圧が遷延する場合に限り、グルカゴン投与を考慮します。
アナフィラキシーは必ずしも皮膚が痒くなり、発疹、ヒューヒューと息をし出す喘息症状・呼吸困難が起こるとは限りません。腹痛・悪心・嘔吐・下痢の消化器症状のみもあり得ます。腹部症状だけでアナフィラキシーを診断するのは困難です。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも、悪心・下痢になるため、アナフィラキシー起こっても分り難いかもしれません。嘔吐は、通常の甲状腺機能亢進症/バセドウ病で起こる事なく、甲状腺クリーゼまで行くと起こります。
また、いつどこで起こるかもしれないため、その場に血圧計、聴診器が無いと分かりません(アナフィラキシーの既往のある人は、エピペン®と同時に自動血圧計も携帯すれば便利でしょう)。
血圧低下・頻脈・頻呼吸のショックバイタルなら、
- 多量出血を伴う急性腹症
- 腹部大動脈瘤破裂
を疑うのが普通。しかし、腹部平坦で圧痛なく腹部所見異常なしなら、
- 急性下壁梗塞
- アナフィラキシー
を疑う必要があります。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーとは
運動の物理的刺激(体に衝撃、圧、遠心力が掛かる)または入浴により、皮膚マスト細胞(アレルギー細胞である肥満細胞)が活性化され、ヒスタミン(アレルギー誘発物質)を放出して誘発されるアナフィラキシーが運動誘発アナフィラキシー。食物依存性と非依存性が存在します。食物依存性なら未消化アレルゲンの腸吸収が、運動により増加するのも一因。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、中学生から青年期に多く、原因食物(アレルゲン)を食べて運動した時のみ起こります。原因食物を食べただけでは起こりません。これまで問題なく食べれていたのに、突然アナフィラキシーを発症しタ場合、食物依存性運動誘発アナフィラキシーの可能性があります。
原因食物(アレルゲン)は、小麦、エビやカニなどの甲殻類が最多。洗顔石鹸の小麦分解物がアレルゲンになる場合も。立ち食い蕎麦屋で食べた後なら、そば粉、つなぎの小麦粉、つゆに含まれている魚介成分がアレルゲンとして考えられます。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーを予防するため、原因食物摂取から2時間(可能なら4時間)運動は控えなければなりません。まず、そう痒感(かゆみ)、紅斑、蕁麻疹(じんましん)が先行します。ここで運動を中止せねばなりません。
しかし料理に入っていたのに気付かず運動したらアドレナリン自己注射薬(エピペン®)の出番です。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の方はくれぐれも注意を!
風邪・解熱鎮痛剤・降圧薬[アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬]で食物依存性運動誘発アナフィラキシー
風邪・解熱鎮痛剤・降圧薬[アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬]で食物依存性運動誘発アナフィラキシーが起こり易くなります。
食後に風邪薬(かぜ薬)・頭痛薬を飲んで運動すると、普段は何も起こらないのに運動誘発アナフィラキシーをおこす可能性があります。解熱鎮痛剤(NSAID)が、小腸粘膜のアレルゲン(アレルギーをおこす食品成分)の透過性を高め、アレルギー細胞(肥満細胞)のヒスタミン(アレルギー誘発物質)遊離を増強させるためです。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の方は、御注意下さい。
お好み焼き粉やホットケーキミックスを開封して長い間、室温で放置すると、ダニが多量に繁殖します。ダニアレルギーの人が、その粉を使った料理を食べるとアレルギー、ひどい場合アナフィラキシーショックをおこすことがあります。また、ダニアレルギーは、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の活動性を上げ、増悪・再発の原因になりますので、くれぐれも注意を!
アニサキス症
胃・腸管アニサキス症には、
- 強烈な腹痛・嘔吐の劇症型
- 発疹や痒みの軽症型
があります。腸管外アニサキス症ではアニサキス抗体IgG・IgA検査が有用。
胃・腸管アニサキス症の予防は、
- 生の魚は一度、冷凍する
- 冷凍していたか不明な場合は、よく噛んで虫体を殺虫する
小腸アニサキス症
腹部CT検査で腸管浮腫、腸閉塞を認めれば見当つきます。顔面、体感のアニサキスアレルギーを疑う発疹も参考になります。確定診断は、小腸カプセル内視鏡ですが、もし見つけてもカメラは届かないのでアニサキスを捕れません。
軽症例は7日程度でアニサキス虫体の死亡により改善するので対症療法で良いですが、重症例は開腹手術になります。
(造影CT画像 岡山医学会雑誌(2009)121, 25-27)
ヒスタミン食中毒は、生魚中で大量のアレルギー反応誘発物質ヒスタミンが生成され、加熱調理した後でも、強烈でエピペンが効かないアナフィラキシー起こします(アレルギー様食中毒)。
赤身魚(マグロ、ブリ、サンマ、サバ、イワシ)などのエラ、内臓に多く含まれるアミノ酸の一種ヒスチジンが、微生物(ヒスタミン産生菌)の酵素作用でヒスタミンに変化します。赤身魚のエラ、内臓を処理しないまま室温で4-5時間放置すれば、アナフィラキシー起こすのに十分なヒスタミンが生成されます。ヒスタミンは加熱調理しても分解されません。
また、ヒスタミンはワインやチーズ等の発酵食品にも多く含まれます。
ヒスタミン食中毒の治療は抗ヒスタミン剤と輸液の対症療法しかありません。
予防は、
- 鮮度が低下した魚で作られた料理は食べない。例えば、誰かが釣ってきた魚、売れ残った魚で作られた可能性があるお惣菜。
- ヒスタミンを高濃度に含む食品を口に入れた時、唇や舌先にピリピリした刺激を感じる事があります。決して食べてな行けません。
甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)は、甘くておいしいため患者に評判が良く、
- 子どもの夜泣き・ひきつけ
- 女性のイライラ・不安、不眠症
によく処方されます。
これらは甲状腺機能亢進症/バセドウ病の症状で、見落とされている事もあります。
甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)31.0g中に、甘草5.0g・小麦20.0g😱・大棗(なつめ)6.0gを含むため、小麦アレルギーのある方は要注意!
言うまでもなく、小麦は7大アレルゲン[特定原材料7品目;卵、乳、小麦、海老(えび)、かに、落花生(ピーナッツ)、そば]の1つです。
小麦アレルギーのある甲状腺機能亢進症/バセドウ病の方が服薬すると、自己免疫の活動性が上がり、悪化する可能性があります。
麦門冬湯の麦はジャノヒゲで、小麦ではありません。
また、甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)は甘草も含むため、偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)を起こす可能性があります。
橋本病(慢性甲状腺炎)と密接な関連があるセリアック病は、小麦・大麦・ライ麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応が原因のため、甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)投与を避けるべき。
肥満細胞症は肥満細胞が皮膚などの臓器に異常増殖する病気です。小児65%・成35 %で、成人は20~40歳で発症します(J Invest Dermatol1991;96:32S-38S;discussion 38S-39S.)
体幹四肢の皮膚に多発する褐色斑(色素性蕁麻疹)を擦過すると数分後に膨疹を生じるDarier徴候(ダリエ徴候)が特徴的。
種々の刺激により肥満細胞の脱顆粒が起こるとアレルギー反応→アナフィラキシーショックもあり得ます。
肥満細胞白血病に移行する事もあります(Blood 2017;129:1420-1427.)。
発作的な顔面紅潮は、神経内分泌腫瘍(カルチノイド症候群・褐色細胞腫・甲状腺髄様癌)との鑑別が必要(J Am Acad Dermatol. 2006 Aug;55(2):193-208.)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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