甲状腺アミロイドーシス・結節性甲状腺アミロイドーシス[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会年次学術集会で入手した知見です。
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Summary
アミロイドーシスは線維構造をもつ不溶性蛋白のアミロイドが臓器に沈着し機能障害をおこす疾患。原発性甲状腺アミロイドーシスは稀。結節性甲状腺アミロイドーシスは橋本病のリンパ球・形質細胞がIgGκ鎖を産生するのが原因?多発性骨髄腫のM蛋白によるALアミロイドーシス、関節リウマチの血清アミロイドA(SAA)によるAAアミロイドーシス、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーもある。症状は甲状腺機能低下症、難治性下痢、ネフローゼ症候群。甲状腺超音波(エコー)画像は高輝度/低輝度いずれもあり。穿刺細胞診で無構造好酸性物質を認めコンゴーレッド染色陽性。
Keywords
甲状腺アミロイドーシス,橋本病,ALアミロイドーシス,ALアミロイドーシス,トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー,甲状腺機能低下症,超音波,エコー,甲状腺,アミロイド
アミロイドーシスは線維構造をもつ不溶性蛋白のアミロイドが臓器に沈着し機能障害をおこす疾患で、甲状腺に沈着し甲状腺機能低下症(甲状腺アミロイドーシス)になります。
原発性甲状腺アミロイドーシスは、一生に一度お目に掛れるかの超まれな甲状腺アミロイドーシスです。以下の甲状腺に関連するアミロイドーシスは、甲状腺以外に原因がありますが、原発性甲状腺アミロイドーシスは甲状腺以外の原因はありません。免疫抗体のIgGのκ鎖などが甲状腺でアミロイドに変性し蓄積しますが、ALアミロイドーシスのように全身に蓄積しません。
謎の結節性甲状腺アミロイドーシスを鹿児島大学が甲状腺学会で複数回、さらに大分大学も論文で報告しています。超音波(エコー)検査上、見かけは甲状腺腫瘍、境界不明瞭・不均質な低エコー領域で、石灰化も伴う。穿刺細胞診で腫瘍成分はなく、アミロイドのみが見つかるも、アミロイドーシスをおこす他の病気が全くないとの事です。
大分大学の報告は多結節性甲状腺腫の形態です[Acta Pathol Jpn. 1992 Mar;42(3):210-6.]。
橋本病に合併した結節性甲状腺アミロイドーシスの病理組織標本では、
- アミロイド結節内の甲状腺濾胞構造は破壊され、異物反応や石灰化も存在する(第57回 日本甲状腺学会 P2-061 橋本病に合併した甲状腺amyloidosis の一例)
- アミロイド結節周囲の甲状腺組織には、リンパ球・形質細胞の炎症性細胞浸潤とリンパ濾胞形成を認めます。これらのリンパ球・形質細胞が、IgGのκ鎖を産生するのが原因では?と推察しますが、原因不明です。(第58回 日本甲状腺学会 P1-12-3 橋本病に合併した甲状腺限局免疫グロブリン軽鎖amyloidosisの一例)
- アミロイド沈着物は、細胞質内に小アミロイド滴を含む多数の組織球と多核巨細胞に囲まれる。しかし、血管壁にアミロイド沈着は無し。免疫組織化学検査により、アミロイドはアミロイドP成分、IgG、κ軽鎖が強陽性で、IgG、特にκ軽鎖(AL)が前駆体タンパク質と判明。[Acta Pathol Jpn. 1992 Mar;42(3):210-6.]。
- ALアミロイドーシス
- AAアミロイドーシス:関節リウマチに続発[慢性炎症時, 肝臓から産出される急性期蛋白の血清アミロイドA(SAA)の代謝産物アミロイドA], 家族性地中海熱(周期的に起こる発熱・関節炎・胸膜炎・腹膜炎)でも起こります。
- トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー:熊本県と長野県にトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの大集積地があります[Neurology. 2002 Apr 9;58(7):1001-7.]。
- 老人性トランスサイレチンアミロイドーシス(老人性全身性アミロイドーシス、senile systemic amyloidosis;SSA);野生型トランスサイレチンを前駆蛋白としたアミロイドが主に心臓、肺、もちろん腎臓,副腎,甲状腺などに沈着[Lab Invest. 1983 Feb;48(2):231-40.]
- 透析アミロイドーシス:ベータ2ミクログロブリン(β2ーMG)が沈着。透析期間が数年以上で発症
- 脳アミロイドーシス:アルツハイマー型認知症でアミロイド前駆体蛋白(アミロイドベータ)が脳に蓄積。甲状腺機能低下症の仮性痴呆と鑑別。
ALアミロイドーシスはアミロイドーシスでもっとも多く、多発性骨髄腫(M蛋白がアミロイドに変性)の予後不良因子(平均余命1.5年)ですが、Rd療法(レナリドミド+デキサメサゾン)、末梢造血幹細胞移植(ASCT)の有効性が報告されます。
- 甲状腺以外の臓器のアミロイドーシスが臨床上問題になり、甲状腺アミロイドーシスは後から見つかる
- 甲状腺機能低下症で治療中に他臓器のアミロイドーシスが見つかり、甲状腺もアミロイドーシスだった事が後から分かる
が多いです。
例えば、
- 難治性下痢、胃びらん・多発性小潰瘍、小腸の多発潰瘍による下血 (消化管アミロイドーシス)
- ネフローゼ症候群、尿タンパク増加や腎機能悪化(腎アミロイドーシス)
- 心アミロイドーシス;心臓の間質にアミロイド線維が沈着する二次性心筋症で不整脈・心肥大・左室拡張障害による心不全。心電図で低電位差、心エコーで心筋肥厚・エコー輝度増加、心筋生検が診断に有用。
- 起立性低血圧・発汗障害(自律神経障害)、手足のしびれ・筋力低下(末梢神経障害)
- 手根幹症候群
を認めればアミロイドーシスの可能性があります。
上部消化管と腎のアミロイド沈着程度は一致するので、まず胃カメラで生検します。
甲状腺アミロイドーシスによる甲状腺機能低下症に心アミロイドーシスを合併すれば、徐脈・心不全が相乗効果で増悪します。心アミロイドーシスの生命予後は4カ月です。
腎アミロイドーシス
心アミロイドーシス
トランスサイレチン(プレアルブミン)は、甲状腺ホルモン・チロキシン(T4)輸送タンパク質です。主に肝臓で合成された後、血中へ分泌されます。トランスサイレチン(プレアルブミン)は甲状腺ホルモン結合蛋白の約15%を占めます[TBG(サイロキシン結合グロブリン)が70~75%、アルブミンが約10%]。
トランスサイレチン(プレアルブミン)は栄養状態の指標につき、炎症、妊娠、腫瘍など低栄養状態で低下します。
トランスサイレチン(プレアルブミン)の立体構造は、14kDa の単量体が四量体を形成した可溶性蛋白で、血中を循環していますが、単量体になるとアミロイドとして組織へ沈着します。
トランスサイレチン遺伝子変異では、四量体構造が不安定になって単量体が増えるため、アミロイドーシスが進行します。
トランスサイレチン遺伝子変異による心アミロイドーシスはピロリン酸シンチグラフィー(201TlCl+99mTc-PYP)で心筋全体に集積を認めるのが特徴。[Amyloid. 2003 Dec;10(4):229-39.]
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(Transthyretin-type Familial Amyloid Polyneuropathy)の治療は、これまで肝移植しかありませんでした。正常な肝臓を移植すれば、正常なトランスサイレチンを作れるようになります。しかし、最近、アミロイド沈着を抑え、トランスサイレチン遺伝子変異による心アミロイドーシス・末梢神経障害の進行を抑制する「ビンダケル®カプセル20mg」(タファミジスメグルミン)が開発されました。
- 甲状腺髄様癌:(プロ)カルシトニンがアミロイド化
- Ⅱ型糖尿病・インスリノーマ:LAPP(アミリン)がアミロイド化
甲状腺アミロイドーシスの症状は、
- びまん性甲状腺腫大(amyloid goiter、アミロイド ゴイター):アミロイドが甲状腺に沈着し、甲状腺は腫大します。多発性骨髄腫が原因のALアミロイドーシスでは化学療法により甲状腺腫が縮小します
- 甲状腺機能低下症;アミロイド沈着による甲状腺濾胞組織の破壊が原因
- 亜急性甲状腺炎様症候群;[J Clin Ultrasound. 2018 Sep;46(7):497-500.][J Clin Endocrinol Metab. 1988 Jul;67(1):41-5.][Endocr J. 1998 Jun;45(3):421-5.]
亜急性甲状腺炎様症候群の特徴は
- 常に同じ部位に限局する痛み
- 副腎皮質ホルモン剤(グルココルチコイド)で劇的な改善
- 寛解しても持続する甲状腺腫
- 再発を繰り返す
- 消化管、腎臓、心臓にもアミロイドーシス
亜急性甲状腺炎の臨床的特徴を有する患者が再発を繰り返す場合、甲状腺アミロイドーシスの可能性を考慮する必要があります。[J Clin Ultrasound. 2018 Sep;46(7):497-500.][J Clin Endocrinol Metab. 1988 Jul;67(1):41-5.][Endocr J. 1998 Jun;45(3):421-5.]
甲状腺アミロイドーシス(関節リウマチ)母娘
甲状腺アミロイドーシスの細胞診
甲状腺アミロイドーシスの細胞診では通常、写真のように無構造好酸性物質を認め、その中に線維芽細胞が増生しています。濾胞組織は破壊され、細胞成分は少ない。
また、多核巨細胞と少数の類上皮細胞を認め、亜急性甲状腺が疑われた報告例があります。(第61回 日本甲状腺学会 O31-5 細胞診で亜急性甲状腺炎が疑われたアミロイド甲状腺腫の1例)(亜急性甲状腺炎様症候群)
甲状腺アミロイドーシスの組織診
皮膚アミロイドーシスは、皮膚に限局してアミロイドが沈着する病態です。全身性アミロイドーシスの一症状のこともあります。
- 斑状アミロイドーシス;背部、四肢伸側に点状・線状の褐色斑が多発し、海面を見ている様な感じです(さざ波様)
- アミロイド苔癬;褐色の小丘疹
皮膚アミロイドーシスは、強い痒みを伴います。
皮膚アミロイドーシスと甲状腺
皮膚アミロイドーシスと甲状腺の関連として、
- 多発性内分泌腺腫症2型(MEN2)にアミロイド苔癬を合併する事があります。年齢の平均値は31 ± 17歳で、77%が女性であり、すべてコドン634 RET遺伝子変異を有したそうです。(Fam Cancer. 2016 Oct;15(4):625-33.)
- 家族性甲状腺髄様癌(FMTC)に皮膚アミロイドーシス(斑状アミロイドーシス・アミロイド苔癬両方)を合併する家系。RET c.2671T>G (p.S891A)遺伝子変異を有する。(Oncotarget. 2015 Oct 20;6(32):33993-4003.)
- 多形皮膚委縮様の皮膚アミロイドーシスに甲状腺乳頭癌を合併した報告(J Dermatol. 2018 Feb;45(2):241-243.)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病でアミロイド苔癬が悪化した報告(Postepy Dermatol Alergol. 2013 Aug;30(4):265-7.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。