甲状腺と救急;気道閉塞・窒息、甲状腺内異物[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は内科系甲状腺専門クリニックです。救急外来を行っておりません。
Keywords
気道閉塞,窒息,甲状腺,乳頭癌,濾胞癌,気管切開,輪状甲状間膜切開,甲状腺内異物,甲状腺悪性リンパ腫,甲状腺未分化癌
Summary
気道閉塞(窒息)するのは①良性巨大甲状腺腺腫、急速に増大する甲状腺悪性リンパ腫(ステロイドで縮小)や甲状腺未分化癌、巨大のう胞内出血(嚢胞内出血)、穿刺細胞診による出血が気管圧排②甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の気管浸潤による出血・組織崩壊時[レンビマ®(レンバチニブ)で腫瘍壊死した時も]③リーデル甲状腺炎④舌異所性甲状腺。気管切開が必要。輪状甲状間膜切開(輪状甲状靭帯切開)は超緊急の気道確保。乳幼児の気道閉塞・窒息は首を押さえるが甲状腺が原因と違う。甲状腺内異物は魚骨が食道から穿通。アルカリボタン電池/リチウム電池誤嚥(誤飲)は消化管穿孔。
甲状腺が原因で気道閉塞(窒息)を起こすのは、
- 急速に増大する甲状腺悪性リンパ腫や甲状腺未分化癌が気管を圧排する時(Scand J Surg. 2004;93(4):272-7.)(Acta Chir Iugosl. 2003;50(3):141-6.)
- 甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)、甲状腺未分化癌が気管浸潤し、浸潤した場所で出血・組織崩壊をおこす時(レンビマ®(レンバチニブ)が効いて腫瘍が壊死した時にも)
- 良性巨大甲状腺腺腫でも気管を圧排する時(Clin Case Rep. 2018 Jun 17;6(8):1635-1636.)
- 巨大のう胞内出血(嚢胞内出血)で気管を圧排する時
- 穿刺細胞診による出血で気管を圧排する時
- 甲状腺動脈瘤破裂で気管を圧排する時
- リーデル甲状腺炎の激烈な炎症で気管に癒着・圧排が起こる時
- 舌異所性甲状腺で咽頭部出血(J Pak Med Assoc. 2020 Feb;70(2):351-353.)
これらは、気道確保目的で気管切開の適応になります。気管の圧排は甲状腺超音波(エコー)検査・CTで評価できます。緊急性については、耳鼻咽喉科に依頼して喉頭鏡(喉頭ファイバー)をしてもらい、声門下の浮腫があれば緊急性高いと言えます。
ただし、気管切開は患者にとって、身体的負担であるのは言うに及ばず、精神的な苦痛は計り知れないものがあります。原因が甲状腺悪性リンパ腫の場合、副腎皮質ステロイド剤を投与すれば、急速な甲状腺の縮小と声門下浮腫の消失が見られるため試す価値はあります。甲状腺悪性リンパ腫以外でも、ステロイドパルスは声門下浮腫を改善させる可能性があります。
甲状腺が原因で嚥下障害(食物・液体の飲み込みが悪くなる事)が起こると、誤嚥(食物・液体が気道に入る)による気道閉塞(窒息)・誤嚥性肺炎・びまん性誤嚥性細気管支炎
に至る危険性があります。
- 甲状腺癌の直接浸潤、甲状腺腫瘍・バセドウ病手術後の反回神経麻痺
- 高齢者では元々、嚥下機能が低下している上に、甲状腺の病気を合併している場合(第63回 日本甲状腺学会 C3-17 嚥下障害を契機に発見されたうつ病を反復するバセドウ病再発例)
輪状甲状間膜切開(輪状甲状靭帯切開)は、
- モチ、おにぎり、唐揚げ、海藻類[ヨウ素(ヨード)を多く含み、甲状腺に悪いだけでなく、喉(のど)に詰まり易い]を喉(のど)に詰めて呼吸ができず、背部殴打法やハイムリッヒ法でも外れない時
- 急性喉頭蓋炎で呼吸困難をおこし、気管内挿管も不能な状態
即ち、完全気道閉塞時の超緊急手段。
甲状腺を誤って傷付けて大量出血する危険を伴い、声帯を傷付ければ声が出なくなります。米国では救急医が一生に一度経験するか否かの手技です。甲状腺専門医を含む内科系では、まず行いませんが輪状甲状間膜(輪状甲状靭帯)に数本太い針を刺し、最低限の呼吸を確保すれば上出来。
それでも甲状腺専門医なら、まずエコーで甲状腺の位置を確認しないと、とても行えない手技です。その場にエコー装置があるのか?、エコー装置の電源を入れて稼働状態になるまでの時間があるのか?と言う問題はありますが・・。
肥満体型の人では輪状甲状間膜が見えないし、触れても正確な位置が分かりません。緊急気管切開に踏み切るしかありません。
消化管異物の大半は自然排出されますが、時に消化管穿孔や穿通を起こす事があります。穿通して咽頭腔外異物が生じるのは、甲状腺、咽頭後壁、下咽頭収縮筋、頚部皮下などです。
甲状腺内異物は稀な病態で、消化管異物(主に魚骨)が食道から穿通したものが多く、過去の報告では数日から数カ月で診断されています。
甲状腺内異物となる魚骨で最も多いのは鯛で、クエや土用丑の日は鰻(うなぎ)なども。
頚部レントゲン検査は骨、ガラス、金属を検出しやすいが、木材などのX線透過性物質は検出できない事が多い。このような場合、超音波(エコー)検査、CT・MRIが有用。エコーが届かない所はCT・MRIが良い。
海外の報告では魚を食べた後、突然の咽頭痛が起こり、喉頭ファイバースコープ検査を受けるも異物は見つからず。首を回した時の異物感とヒリヒリ感が持続し、甲状腺超音波(エコー)検査で魚骨を発見。手術で取り出したそうです。[Case Rep Med. 2018 Feb 22;2018:7345723.]
鹿児島大学病院の報告で、甲状腺に類上皮細胞肉芽腫が疑われ、診断治療目的にて甲状腺半切除した症例があります。
- 主訴は頚部腫瘤
- CTで甲状腺に内部石灰化を伴う腫瘤
- 穿刺細胞診では診断不能(リンパ球他、炎症細胞のみでしょう)
- 組織生検(コア生検)で、線維組織、リンパ球浸潤を伴う類上皮細胞肉芽腫疑い(甲状腺結核、甲状腺サルコイドーシス、悪性中皮腫などが疑われます)
- 診断治療目的で甲状腺半切除術を施行、中心部に3mm 大の金属様の遺物、壊死組織と炎症細胞浸潤のみで異物に対する反応性変化と考えられた
- 因果関係は明らかでないが、20年前に魚骨をひっかけた既往あり
(第59回 日本甲状腺学会 P3-1-2 長期経過を経て壊死組織を伴う肉芽腫様反応を形成した甲状腺内異物の一症例)。
筆者の考えは、「魚骨の破片が甲状腺内に残存し、異物肉芽腫を形成した」。
魚骨による異物肉芽腫の報告は、食道や膵頭部で散見されますが、甲状腺では他にありません(R6.4現在)。[Jpn J Radiol. 2011 Jan;29(1):63-6.][Chirurg. 1999 Dec;70(12):1489-91.]
乳児は何でも口に入れてしまいます。乳児食道異物の症状は、固形物を摂取した後の嘔吐です。水分摂取は問題ありません。乳児食道異物の診断は、胸部エックス線での円形異物の確認です。硬貨・コインもボタン型電池と同じように写ります。
アルカリボタン電池(二酸化マンガン)/リチウム電池誤嚥(誤飲)は、最も危険な小児食道異物。
- アルカリボタン電池(二酸化マンガン)は胃酸で表面金属が腐食され、アルカリ性物質が流れ出て胃壁を損傷し、胃に穴が空いてしまいます。報告では、2歳5ヵ月の女児で、アルカリボタン電池(二酸化マンガン)が食道第1狭窄部に陥入し、全身麻酔下で摘出したが、4日目に上部食道の陥入部から食道穿孔、気管支食道痩孔を形成、最後は甲状腺動脈の破裂を起こし死亡 したそうです(Ann Otol 86: 611-615, 1977.)。食道第1狭窄部は、甲状腺の真後ろに当たり、ここから穴が空くと甲状腺も損傷されます。
- リチウム電池はさらに厄介です。放電能力が高く、胃酸が無くても、電気分解で電池表面にアルカリ液が生成されるので、30 分~1 時間程度の短時間で急速に食道内潰瘍形成し消化器穿孔します。直ちに内視鏡的摘出を試みる必要があります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。