急性腎障害(AKI)と甲状腺、尿中L-FABP(肝臓型脂肪酸結合蛋白),術後急性腎障害,薬剤性間質性腎炎[橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
動脈硬化:専門の検査/治療/知見[橋本病 バセドウ病 エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺専門・動脈硬化の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。急性腎障害(AKI)自体の診療を行っておりません。
Summary
急性腎障害(AKI)は数時間~数日で急激に腎機能が低下。甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬(抗甲状腺薬)メルカゾール、甲状腺機能低下症+脱水も原因に。甲状腺摘出術後甲状腺機能低下症は、甲状腺から直接分泌されるT3(トリヨードサイロニン)が低下し術後急性腎障害(AKI)になりやすい。尿中L-FABP(肝臓型脂肪酸結合蛋白)は尿細管機能障害、慢性腎臓病(CKD)の進展予測、急性腎障害(AKI)・糖尿病腎症の早期診断に有用。甲状腺中毒症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では尿L-FABPが高くなり腎臓の診断に使えない。薬剤性間質性腎炎は解熱鎮痛薬などで。
Keywords
急性腎障害,AKI,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,甲状腺,術後急性腎障害,L-FABP,肝臓型脂肪酸結合蛋白,薬剤性間質性腎炎
急性腎障害(AKI)は数時間~数日で急激に腎機能が低下し、乏尿(尿量が減少)になる状態です。
急性腎障害(AKI)はいかなる原因でもおこりますが、動脈硬化による腎前性のもの(両側腎梗塞、腎動脈血栓)があります。
(NHKより)
尿細管障害マーカーの一つ尿中L-FABP(肝臓型脂肪酸結合蛋白)は、正常時なら肝臓から排出後、腎臓の腎近位尿細管で再吸収されます。尿細管周囲の血流不全で酸化ストレスにより再吸収されなくなったL-FABPは、尿中に排出されます。
尿中L-FABP測定は、
- 尿細管機能障害
- 慢性腎臓病(CKD)の進展予測[CKD G3b(GFRが30-44 ml/分/1.73㎡)になると、ほぼ全例で上昇するので、測定意義はなくなる]
- 急性腎障害(AKI)の早期診断
- 糖尿病腎症の早期診断
に有用です。(Club SRLより)
甲状腺ホルモンの尿中L-FABP(肝臓型脂肪酸結合蛋白)への影響
甲状腺ホルモンが尿中L-FABP(肝臓型脂肪酸結合蛋白)へ与える影響が報告されています。苫小牧市立病院の報告によると、1453症例に甲状腺ホルモン値と尿L-FABPを同時測定した所、尿L-FABP値に寄与する因子は、年齢(標準β=0.214、p<0.001)、FT4(標準β=0.493、 p=0.005)の2つ。
甲状腺中毒症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、尿L-FABPが高くなり、腎臓の診断に使えない可能性があります[甲状腺機能亢進症/バセドウ病と慢性腎臓病(CKD)]。(第60回 日本甲状腺学会 O10-1 甲状腺ホルモンの尿L-FABP測定への影響)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬(抗甲状腺薬)メルカゾールで急性腎障害(Acute Kidney Injury: AKI)をおこした報告があります。
メルカゾール開始後1ヶ月以内に血清クレアチニン(Cr)が1.6倍に上昇し、中止後2週間以内に元に戻ったそうです。その後プロピルチオウラシル(PTU)治療で安定しているため、MPO-ANCA関連血管炎と甲状腺 は考え難いと思います。(J Pharm Pract. 2018 Aug 15:897190018789277.)
甲状腺機能低下症だけで、横紋筋融解症を伴わないのに急性腎障害(acute kidney injury)をおこした報告もあります(甲状腺機能低下症関連急性腎障害)。いずれの報告も、脱水による腎前性腎不全が腎血流をさらに減少させたようです。[R I Med J (2013). 2020 Sep 1;103(7):61-64.](第65回 日本甲状腺学会 O1-3 急性腎不全を契機に診断された甲状腺機能低下症の一例)
甲状腺摘出術後の甲状腺機能低下症は、術後急性腎障害(AKI)に成り易いとされます(Sci Rep. 2018 Sep 10;8(1):13539.)。いきなり甲状腺が部分的あるいは全部なくなって、甲状腺ホルモン産生が低下するのだから当然と言えます。
甲状腺ホルモンT3(トリヨードサイロニン)の20%は甲状腺から直接分泌され、残りは末梢で甲状腺ホルモンT4(サイロキシン)から生成されます。T3(トリヨードサイロニン)は半減期が数時間のため、直接分泌される20%以下の分がいきなり低下します。これが術後急性腎障害(AKI)を引き起こします。
でも体内には、半減期2週間の甲状腺ホルモンT4(サイロキシン)がストックされているので、通常は数週間だけ持ちこたえられます。それでも術後急性腎障害(AKI)を予防するため、できるだけ速やかに甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)補充を開始する必要があります。
入院患者における急性腎障害(AKI)の発生率は増加しているものの、治療成績は改善していません。甲状腺ホルモン療法は動物実験で有用との報告がありますが、患者での有効性と安全性は確立されていません(Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jan 31;(1):CD006740.)。筆者も急性腎障害(AKI)の治療に甲状腺ホルモン剤を使うのはどうかと思います。
薬剤性間質性腎炎(drug-induced interstitial nephritis)は、主に抗生物質・抗結核薬、解熱鎮痛薬(NSAIDs)、胃酸を抑える胃薬[BMC Nephrol. 2021 Aug 30;22(1):294.]、痛風治療薬(いずれも痛風・偽痛風で使います)、抗てんかん薬で多いとされます。また、尿酸・蓚酸カルシウム自体でも間質性腎炎はおこります。
解熱鎮痛薬(NSAIDs)のCOX1阻害による腎前性腎不全もおこり得ます。
薬剤性間質性腎炎では、腎臓の尿細管と周囲組織(間質)にアレルギー反応性炎症が起こります。発熱、発疹、関節痛(今度は痛風とは別の関節が痛くなります)、腹痛、嘔吐、下痢など、風邪(かぜ)のような症状で、腎不全に至ります。
- 尿蛋白軽度陽性・尿NAG高値(尿中β-D-Nアセチルグルコサミニダーゼ)・尿中β2マイクログロブリン(糸球体異常でも増加するので意味なし)・白血球円柱を認める
- 67Ga(ガリウム)シンチグラフィーにおける腎への取り込み(集積)増大は特異的
- 腎生検により確定診断される
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,浪速区,生野区も近く。