甲状腺機能低下症・橋本病と筋肉痛・筋けいれん・筋力低下[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 エコー 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次学術集会で入手した知見です。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は、筋肉痛・筋けいれん・筋力低下自体の治療は行っておりません。
- 甲状腺機能低下症・橋本病と筋肉痛・筋けいれん(攣[つ]る)(甲状腺機能低下性ミオパチー)(本ページ)
Summary
甲状腺機能低下症・橋本病では不可逆的に筋組織が変性。筋力低下はCK(CPK)、甲状腺機能(TSH、FT4)と無関係。甲状腺機能低下性ミオパチーは近位筋(大腿部、腕、背中の筋)の筋肉痛や筋けいれん(Hoffman症候群)。高齢者で甲状腺機能低下症が長期では甲状腺ホルモン剤治療開始時に大腿部、腕、背中の筋肉痛がおこる事も。最も重症なのは横紋筋融解症(甲状腺機能低下性横紋筋融解症)で筋肉壊死による浮腫でコンパートメント症候群に移行。重度の甲状腺機能低下症で稀に急性コンパートメント症候群になり、横紋筋融解症に移行。
Keywords
甲状腺,橋本病,ミオパシー,筋力低下,筋痛,Hoffmann症候群,甲状腺機能低下症,コンパートメント症候群,横紋筋融解症,筋けいれん
甲状腺機能低下症では、
- 38%が筋力低下
- 42%が筋肉疲労、筋肉痛、筋けいれん(攣[つ]る)
- 16%が筋症状で、医療機関を受診
- 42%が末梢神経障害
- 29%が手根管症候群[末梢神経(四肢)のしびれ、知覚障害おこすのは、4.5.合わせて29%]
を起こします。
- 筋酵素CK(CPK)は上昇する場合がありますが、筋力低下と無関係です。1年間治療しても13%で筋力低下が持続します。
- 筋力低下は甲状腺機能(TSH、FT4)に無関係です。
(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2000 Jun;68(6):750-5.)。
甲状腺機能低下症での筋症状の原因は、単なる代謝障害でなく、骨格筋での粘液多糖類(グルコサミノグリカン)の沈着などによる
- 筋肉組織のⅡ型線維の萎縮
- 筋肉組織のⅠ型線維の核様変形
- 筋細胞核の増加
など不可逆的な筋組織の変性によると考えられます(J Neurol Sci 1987:77:237–48.)。
甲状腺機能低下症/橋本病でも近位筋(大腿部、腕、背中の筋)の筋肉痛や筋けいれん(攣[つ]る)がおきます(甲状腺機能低下性ミオパチー)。筋肥大を伴うと甲状腺中毒性ミオパチー同様、Hoffman症候群とよばれます。
特に高齢者で甲状腺機能低下症が長い間見つからなかった人では、甲状腺ホルモン剤、チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)による治療開始時に、大腿部、腕、背中の筋肉痛がおこることがあります。決して薬を中止せず、甲状腺専門医の指示に従ってください。
横紋筋融解症は、筋肉が崩壊し、含まれていたミオグロビン、カリウム(K)、カルシウム(Ca)などが血中に放出され、急性腎障害→急性腎不全・透析に至る致命的な病態です。
甲状腺機能低下症/橋本病による筋障害で最も重症なのは横紋筋融解症(甲状腺機能低下性横紋筋融解症)です。通常、腎不全、副腎不全、過度の運動、下記の薬剤、アルコールによって引き起こされます。
また、筋肉壊死による浮腫で次項のコンパートメント症候群に移行します(Endocr Pract. 2011 Jul-Aug; 17(4):629-35.)。
腎不全に至る前なら、十分な水分負荷、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)補充で回復可能。(Rev Med Liege. 2007 Jul-Aug;62(7-8):484-6.)(BMJ Case Rep. 2019 Oct 5;12(10):e231579.)
甲状腺機能低下症における横紋筋融解症で、急性腎障害に至るケースは非常にまれですが、報告はあります(Case Rep Med. 2014;2014:139170.)。血液透析まで要する事もあります(Turk J Pediatr. 2011 Sep-Oct;53(5):586-9.)。
横紋筋融解症をおこす薬剤として、
- 高脂血症治療薬(スタチン系、フィブラート系)(J Pharmacol Sci. 2013;123(4):289-94.)
- 抗生物質ニューキノロン剤;レボフロキサシン(クラビット®)(Med Case Rep. 2016 Aug 24;10(1):235.)
- 抗精神病薬・双極性障害治療薬;オランザピン(ジプレキサ®)(Ann Pharmacother. 2001 Sep;35(9):1020-3.)
- 抗がん剤[白金製剤オキサリプラチン(エルプラット®)](BMJ Case Rep. 2019 Apr 16;12(4):e228673.)
- 麻酔薬[揮発性吸入麻酔薬(ハロタン、イソフルラン、セボフルラン、デスフルラン)、筋弛緩薬(スキサメトニウム)]で悪性高熱症
などがあり、甲状腺機能低下症状態での使用は危険です。
急性コンパートメント症候群 とは
急性コンパートメント症候群の原因は、
- 外傷(骨折・打撲)、やけど
- 血管手術後
- ヘビ咬傷
- ネフローゼ症候群
- 造影剤(Clin Imaging. 2020 May;61:58-61.)
- 薬物乱用
などです。

急性コンパートメント症候群が起これば、患肢は腫れ、血流不全のため冷たく、神経圧迫のため感覚が無くなります。(BMJ Case Rep. 2018 Apr 1;2018:bcr2017222377.)
急性コンパートメント症候群は、直ちに適切な治療(緊急筋膜切開術)をしなければ、
- 筋肉とその領域の患肢が壊死
- クラッシュ症候群(クラッシュシンドローム・挫滅症候群)・横紋筋融解症へ移行
- 感染症合併
し、致死的になり、救命しても一生、障害が残ります。(Curr Rev Musculoskelet Med. 2012 Sep; 5(3):206-13.)
急性コンパートメント症候群と甲状腺
急性コンパートメント症候群は、重度の甲状腺機能低下症で稀に見られます。甲状腺機能低下症によりコンパートメント症候群がおこる機序は不明ですが、グリコーゲン分解の低下、ミトコンドリア代謝障害などが考えられます。(BMC Endocr Disord. 2020 Jun 5;20(1):80.)(Rev Endocr Metab Disord. 2016 Dec; 17(4):499-519.)
報告例の大半は、甲状腺ホルモン剤の中止など、甲状腺ホルモンの急激な低下によって引き起こされています。(Rev Endocr Metab Disord. 2016 Dec; 17(4):499-519.)
甲状腺機能低下症による急性コンパートメント症候群は、前項の横紋筋融解症を引き起こします。(Ann Plast Surg. 2015;74(Suppl 2):S158–S161.)
橋本病にシェーグレン症候群を併発すると、間質性腎炎から尿細管性アシドーシス起こし低カリウム血症になります。低カリウム性ミオパシーによる筋肉痛、筋力低下で起き上がれなくなります。(橋本病(慢性甲状腺炎)合併シェーグレン症候群(ドライアイ,口内乾燥 )
橋本病 バセドウ病と似ている筋の病気
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,東大阪市,天王寺区,生野区も近く。